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居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について  作者: 古野ジョン


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第24話 悪友からの忠告

「どうすっかなあ」


 学食のカウンター席にて、右手に持った箸で蕎麦をすすりながら、左手に持ったスマホで調べ物をしている。明日の土曜日、夏織さんとデートに行く。そのためにいろいろと検索しているのだ。


「流石に水族館を回るのは午前で終わるよなあ……」


 いくら大きい水族館とは言っても、見るのに一日中かかるようなスポットじゃないからな。その後はどこに行こう? 大昔は松島に水族館があったから、そのまま遊覧船にでも乗ればよかったのだけど。


 でもなあ、デートかあ。この間まではドタバタしてたけど、改めてデートだって思うとワクワクするなあ。あんなモデルみたいな夏織さんと二人で……なんて、夢みたいだ――


「あの、すいません」

「へっ?」


 誰だ、知り合い? なんて思いながら振り返ると――そこにいたのは、見知らぬ女子学生二人組だった。マスクをしていて、素顔がよく分からない。


「僕に何か用ですか?」

「お聞きしたいことがあるんですけど」

「は、はあ」


 なんだろう? ……二人とも妙に目がぎらついていて、怖い。あまりこのキャンパスに知り合いはいないんだけど、誰だろう。


「篠崎夏織さんとはどういったご関係なんですか?」

「……は?」


 夏織さん? なんで?


「ど、どういうことですか?」

「どういったご関係なんですか?」


 なになになに!? マジで怖いんだけど!? なんでそんな睨んでくるの!? っていうか蕎麦食ってる時に話しかけてくるんじゃねえよ!


「あの、あなた方は何者なんですか?」

「質問に答えてください。どういったご関係なんですか?」

「そう聞くならそっちが名乗ってください」


 なんだコイツら、マジで。質問に答えてください、じゃねーよ。そういう時は自分から名乗るもんだろうが。


「……そうですか。では、失礼します」

「は?」


 女子学生二人は、踵を返すようにして向こうに歩いていく。


「ちょっ、ちょっと待て!!」


 追いかけようと思ったが――荷物があるので、動くことが出来ない。どうしようもなく、ただ去っていく二人の背中を眺めるしかなかった。


***


「……ってことがあったんだよ」

「あっはっは! 怜くん、なかなか面白い経験したじゃん!」

「笑いごとじゃねえよ!」


 飲み屋のカウンター席にて、徳利を傾けながら大笑いしているのは――俺の悪友、松岡である。この間のドタキャンの代わりに、今日この店でサシ飲みすることにしていたのだ。当然ながら、松岡のおごりである。


「うさぎたんから聞いてビックリしたよお。まさか怜くんが篠崎さんとお近づきになったなんて」

「ったくよお、お前の彼女には困ったよ」

「あっはっは、それも聞いたよ!」


 おちょこを口につけ、一気に飲み干す松岡。サングラスの下に隠れた目元が笑っていて、浪人時代と変わらないなあと思ったりもする。


 松岡は茶髪のうえにピアスもつけていて、一見するとチャラチャラした怖い兄ちゃんだ。サングラスもかけてるしな。だけど、俺のことは怜()()と呼ぶ(同学年とはいえ、年上だからだろう)し、心の内に悪意を隠すこともない。


「別にお前の彼女はどうでもいいんだよ。それより昼のことが気になってるんだ、何か知らないか」

「怜くんはさあ、自分の立場をもうちょっと理解した方がいいと思うな」

「へっ?」


 空になったのを見て、俺のおちょこに日本酒を注ぐ松岡。なみなみと注ぎ入れてから、松岡はさらに話を続けた。


「あんまり友達いなさそうな怜くんは分かんないだろうけどさ」

「余計なお世話だ」

「篠崎さんって結構な有名人なんだよ。特に川内のキャンパスではね」


 川内というのは一年生が多く集められるキャンパスで、基本的には教養の講義が行われている。医学部のキャンパスにいることが多い俺たちには馴染みのないことだが、篠崎夏織は川内では有名人である。……と、松岡は言いたいのだと思う。


「なんで有名人なんだ?」

「そりゃあんな背が高くて綺麗な女の子、有名になるでしょー!」

「今の、録音して白兎さんに聞かせてやればよかったな。他の女の子を褒めてたぞって」

「ちょっ、怜くんそれはなしだって!」


 慌てたように手を振る松岡。こんななりして、冗談を真に受けるくらいにはピュアなんだよな。


「で、話の続きは?」

「そうそう、とにかく篠崎さんは有名人なんだよ! 弓道でインターハイとか出てたらしいし」

「マジで?」

「知らなかったの?」

「知らなかった」


 マジかよ、言ってくれればいいのに。自分でそういうことを明かさないあたり、やはり謙虚としか言いようがない。俺や松岡だったら威張って自慢してるだろうけど!


「でもよ、夏織さんが有名人なことと今日の件に関係があるのか?」

「はっきり言うよ。怜くんはたくさんの人間を敵に回してる」

「……は?」


 敵? なんで? 俺が何をしたって?


「どういうことだよ!?」

「うさぎたんから聞いたんだけど、篠崎さんには『隠れファン』が多いんだって」

「隠れファン?」

「そ! だからさあ、そういう人からすれば怜くんは敵に決まってるでしょ?」

「そりゃ、そうだけどさ……」

「うさぎたんも隠れファンは警戒しているんだって。篠崎さんが他人に興味を持たないから、今まで何もなかったらしいけど」

「でも、昼に来た奴らは女の子だったぞ」

「関係ないよ。男女関係なくファンは多いんだよ、きっと」


 寝耳に水、というのが松岡の話を聞いた印象だった。要するに、隠れファンからすれば――キャンパスで夏織さんと話したりしている俺は敵ってことか。白兎が異常に俺のことを警戒していたのも、隠れファンの話を聞けば納得がいく。


 だけどさ。……くっだらない話にもほどがあるってもんだ。俺が夏織さんと仲良くする、そのことの何が悪い? むしろ本人に隠れて夏織さんを崇めているのも変な話だろう。


 そりゃ、あの日の記憶のことをいつか打ち明けなければならないのはある。だけど、俺と夏織さんの仲にとやかく言われる筋合いはないはずだ。


「ったく、しょうもないにもほどがあるな」

「あはは、怜くんがそんなに怒ってるのも珍しいね」

「そうか?」

「そもそも僕以外には普段から敬語でしょー? どっちかというと、冷静な印象だけどな」

「まあ、な」


 注いでもらった日本酒を、ちびりと飲む。うまい、飲みやすいな。


「とにかく、俺は気にしないことにするよ」

「さっすが怜くん! 明日もデートなんでしょ?」

「彼女から聞いたのか?」

「そ! 良い話を期待してるからね!」


 松岡はまたけらけらと笑った。浪人時代からさらに笑顔が増えた。あの頃はいろいろあったんだろうが、楽しく大学生活を送っているようで何よりだ。


 さて、俺は俺で頑張らないとな。隠れファンだろうがなんだろうが、関係のない話だ。夏織さん、最高のデートにしような――

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