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居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について  作者: 古野ジョン


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第21話 夜はこれから

「うん、流石に私も満腹だ」

「本当によく食べましたね……うっぷ」


 あれからさらに食べ続け、夏織さんはようやく満足したようだ。俺はビールでなんとか食欲を誤魔化していたけど、この人デザートまで食べていたもんな。なんというか、パワフルだなあ。


「お皿片付けますね~」

「すまない、会計も頼む」

「かしこまりました~!」


 食器を片付けに来た店員と会話を交わす夏織さん。この間と比べて、随分と慣れてきたな。注文を聞かれただけでもテンパっていたのに、一回経験するだけでしっかり学習しているんだ。ちょっと空回りしていることもあるけど、頭脳も明晰なんだな。


「怜、この金額で頼む」


 夏織さんはスッと金額の書かれたメモ用紙を差し出してきた。一円単位で割り勘するのは変わってないな。このために小銭を用意してきてよかった!


「じゃあ、これで」


 俺が差し出した何枚かの紙幣と小銭を受け取って、夏織さんは店員とまた会話を交わしていた。さて、帰り支度でもするか……。


「……」


 夏織さんをじっと見る。この後、俺はどうしたらいいんだ? 元気(・・)になったうえで、俺は何をすべきなんだ?


 白兎が夏織さんに何か唆したのは間違いないだろう。問題は……夏織さんが(・・・・・)どう思っているのかということだ。今日はこの間より距離が近かったから、何か意識はしているのかもしれない。


 もちろん、俺だって夏織さんともっと親密になりたいよ? だけど、物事には順番ってものがある。何もそんなに急がなくても――


「怜、どうした?」

「はいっ!?」

「勘定は済んだぞ。出よう」


 うおっ、びっくりしたなあ。そうか、いつの間にか会計が終わっていたのか。


「そうですね、行きましょうか」


 平静を装いつつ、立ち上がる。まあ、案外店を出ればあっさり「帰る」とか言い出すかもしれないし。とりあえず、エレベーターで下りないとな……。


***


 さて、俺たちは店を出て雑居ビルの前に立っている。通りを行き交う人たちは、怪訝な目でこちらを見ていた。そりゃそうだろう。だって、俺の右腕に――


「怜……」


 こんな美人がしがみついているんだから! なんでまた抱き着かれてるの!? 店ではあんな呑気にお肉ばっか食べてたのに!


「えっと、夏織さん?」

「んー? どうしたんだ、怜……?」


 上目遣いしないで! とろんとした目をこっちに見せないで! 惚れちゃうから! お持ち帰りしたくなっちゃうから!


「な、なんで抱き着いてるんですか?」

「私がそうしたいからだ」

「そうですか~……」


 なんだよ「そうですか」って!? そうですかで済まされる状況ではないんだけど!? 我ながら自分の返事に呆れるわ!


「怜?」

「はい?」

「よ、酔っちゃった……」

「お酒飲んでないですよね!?」


 ぜったい白兎に仕込まれてるだろ!? ウーロン茶で酔う奴がどこにいるんだよ!


「酔ったなら帰りましょうか?」

「……ど、どこかで休んでいきたいな」

「ぶっ!?」


 やめろやめろやめてくれ! お持ち帰りされる人間が言いそうな台詞ランキング堂々の第一位を言わないでくれ!


「夏織さん」

「な、なんだ?」

「白兎さんに何か言われてます?」

「えっ! そ、それはだな……」


 急にそっぽ向いた! 酔っぱらってないじゃん! なに冷汗垂れ流してるんですか夏織さん!


 ……いや、このままじゃ埒が明かない。ここは覚悟を決めよう、俺。せっかく肉もたくさん食べたところだしな!


「分かりました。夏織さん、場所を変えましょう」

「ど、どこに行くんだ?」


 頬を赤くして、少し期待するような目を見せる夏織さん。そうだよな、ここは男を見せる時だよな!


「二人で、体を動かしませんか?」

「怜、それって……」


 目を見開く夏織さん。さて、夜はここからが本番だ――

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