第9話 皇国の興廃この一戦にあり
それを聞いた南雲中将が草鹿少将に尋ねる。
「ハレイワ基地は制空隊に破壊させるとして、二つ目の空母『エンタープライズ』を我が索敵機で探せるものかね」
「重点海域を絞れるなら可能ではと……源田君も申しておりました。あと、企図秘匿のため第1波攻撃隊の攻撃後に索敵機を出すよう手配します」
確かに、急ぐ余り奇襲攻撃前に『エンタープライズ』と接敵するのはタブーだ。
「ここは戦場にございますれば、何が起きても不思議はありません。畏れ多いことですが島村様には本日明けて零時に本艦にZ旗を掲げますので、艦橋にお越し願えますように」
南雲中将はそう告げて参謀長室をあとにした。
いよいよ、今宵明けて午前1時30分に真珠湾攻撃第1波、艦戦43機、艦爆51機、艦攻89機、計183機が発進するのみとなった。
東京時間で12月8日午前1時30分はホノルル時間の7日午前6時に当たる。午前零時に羅針艦橋に上がった私とチハヤは第一航空艦隊の幕僚たちの末席に加わって、飛行甲板上で最終整備を始めた列機を眺める。
黎明の太陽に照らされる飛行甲板では、格納エレベーターから甲板後列に並ぶ九七艦攻が上げられている真っ最中だ。独特の重油と揮発油の匂いが鼻を突く。『赤城』の後ろに目をやれば『加賀』が大きく波に揺られて同じく発艦作業中なのが見える。さらに後ろには『瑞鶴』も見えていて壮観だ。
全機発艦位置につくと「イナーシャ回せ」で各機のエンジンが始動する。午前1時30分に『赤城』から「発艦よし」の号令とともに、一機、また一機と零戦が出発し、次に九七艦攻が爆弾を抱えて重そうに出発していくと、やがて艦隊上空で旋回して隊列を整え、南の真珠湾を目指して飛んでいく。
同じように午前2時45分、攻撃第2波となる艦戦36機、艦爆80機、艦攻54機、計170機が発進していくと、司令部は緊張に包まれる。なお、攻撃第2波のうち『翔鶴』所属の艦攻2機と『瑞鶴』所属の艦攻2機の計4機は爆弾を懸架せず、索敵機として飛ばしたもので、ハワイ沖西方海面を飛ぶことになっている。
午前3時10分、伝声所の通信兵から報告が入る。ハワイ作戦で唯一の敵情視察状況である。
「『筑摩』索敵機から入電、真珠湾在泊艦ハ戦艦一〇、甲巡一、乙巡一〇、以上」
「『利根』索敵機から入電、敵艦隊ハラハイナ泊地ニハアラズ、以上」
それらの報告に南雲中将は無言で頷いていた。ここまでは想定通り事が進んでいる。あとは奇襲か強襲かである。




