第8話 真珠湾への道
次に草鹿少将が部屋に来たのは翌朝になってからだった。後ろには精悍な面差しをした中将の階級章をつけた初老の上官を連れてきている。
「おはようございます。島村様、ワイフ様。今日はどうしても高天原からの御使い様にお会いしたいとのことで、司令官閣下をお連れしております」
「島村様、ようこそ本艦へ参られました。南雲忠一です。どうか神がかりのお知恵を拝借し、この老将の命をお救いください」
いきなりの命乞いの話に驚く。草鹿少将の話によると昨日の空母三隻喪失の話が責任問題に飛び火して、司令部一同、腹を切って潔く天皇陛下にお詫び申し上げようというということになっているらしい。
「とにかく落ち着きましょう」
私がそう言って腰掛けるやいなや、南雲中将の話が始まる。
「東京を離れて三千五百海里、昨日の商船にも見逃してもらい秘密裏に真珠湾に近付けているのも、天佑神助あってのこと。まもなく敵の哨戒線内に入りますが、第一撃は奇襲になるとのことで山本長官もお喜びになられると思っております。しかし、その引き換えに……『赤城』、『加賀』、『蒼龍』の喪失には耐え難い。我が配下の士官から兵に至るまで全ては陛下の赤子、それにお預かりしているフネも我が帝国海軍のかけがえのない至宝。どちらも失うわけには参りません」
気が昂っているのだろう。南雲中将の両手の拳は固く握られ、小さく震えていた。
「まず、空母三隻の喪失については、これからの動き次第では減らせる可能性があります。第一に秘密裏に作られましたハレイワ基地には165機(戦闘機29機/P-36×10機、P-40×10機、F4Fワイルドキャット×9機、爆撃機15機/B-17×15機、艦上爆撃機46機/SB2U艦爆×7機、TBDデヴァステイター艦攻×10機、SBDドーントレス艦爆×29機、哨戒機74機/PBYカタリナ哨戒機×69機、他5機)の陸海軍機が集結しております。これを放置してはなりません。また第二に、ハワイ沖海上にあるハルゼー艦隊の空母『エンタープライズ』(F4Fワイルドキャット戦闘機6機、TBDデヴァステイター艦上攻撃機14機、SBDドーントレス艦上爆撃機24機)も練度、技倆とも上ですので、これを封殺すること。これらに対応された暁には真珠湾の完勝劇は約束されたとも言えるでしょう」




