大和ホテル 赤城の間
気づいたときにはすでにサトミはバスローブを羽織って窓側のソファに腰掛けており、私は素っ裸で布団の中だった。
鏡サトミと私が転移した先はもとの元帥府ではなく、こじんまりとした小さな旅館の一角にある和風の部屋だ。障子が閉じられており、外は見えないが、内装は昭和の旅館そのものである。
「そろそろ、目がさめたかしら」
「ここはどこだ? 『大和』はどうなった?」
「島村サマ、何をおっしゃっているの? ここは大和ホテルよ」
「大和ホテル? いや、スリガオ海峡からブルネイに向けて……」
「そうね、レイテ沖で戦艦『大和』を率いて大戦果を上げさせるものだから、世界線も分岐せざるを得なかったのよ」
「世界線? 分岐?」
全く意味がわからない。ひょっとして今回の戦果は初めて勝利条件を超えたのだろうか。しかし、それを含めても謎だらけだ。
ただ、サトミにとってそれは既定事項のようで戸惑っている私に言葉を紡ぐ。
「伏見宮鳴戸が管理してた世界線が、島村サマが奮闘して連合艦隊を勝たせようとしていたけど勝ちきれなかった世界線。ところが、今回は張り切りすぎて連合艦隊が勝ってしまった世界線ができてしまったの。この二つの世界線の意味はわかるかしら。そして、あまりの急激な世界線のねじれに歴史の復元力が対応できなくなって、新たに世界線ができてしまったというわけ。そこの管理者が島村サマなんです」
「管理者?!私が?」
「そう、そしてこの世界の尚書司隸がアタシなんです」
「尚書司隸?!サトミが?」
「そう、そして私の恩寵を使って尚書殿を離れに設けることにしました。名前はそうねぇ、武蔵御殿が収まりがいいのかしら」
「尚書殿が武蔵御殿……そうするとこの大和ホテルが水師営というわけか。しかし、どうしてサトミがこちらに選ばれたんだ」
「だからアタシの恩寵が尚書殿の造営なのよ。ほかの尚書令より神気横溢でしょ。それよりも、こちらの世界線をより太くするために、しばらくは首席水師の島村サマに頑張っていただかないといけませんから」
どうやら私とサトミが、この世界のアダムとイブではないことを確認しながら、私は大和ホテル(水師営)の運営を手掛けることになったのである。
(島村実継篇・了)
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