第66話 ちぎれゆく世界線
午後6時50分、ドラッグ揚陸地点が見えてくるとまさに芋の子を洗うが如く輸送船と揚陸艇が打ち捨ててある。
「情け無用、撃て」
栗田中将の指令により、主に重巡『鳥海』、『鈴谷』以下が『カラ船』の掃討にあたることとなった。
豈図らんや、その『カラ船』の合い間に魚雷艇PTボートが潜んでいたのである。
艦隊は30分程度海岸に並ぶ『カラ船』の掃射を続けていたが、その魚雷艇の放った魚雷が2本ずつ重巡『鳥海』、『鈴谷』に命中し、弾薬庫に誘爆した『鳥海』が轟沈、『鈴谷』も右舷に傾斜が30度を超え、やむなく総員退艦となった。
午後10時、栗田中将が艦隊をまとめて南へ向けて進めていたとき、戦果を綜合して小柳少将が告げる。
「本日午後4時45分以降の夜戦における戦果、敵戦艦5隻撃破、重巡3隻撃破、駆逐艦2隻撃沈、魚雷艇31隻撃沈、輸送船51隻撃沈、揚陸艦67隻撃破、艦種不明41隻撃沈、我方損害 戦艦『大和』中破、重巡『鳥海』、『筑摩』、『鈴谷』沈没、軽巡『能代』大破後処分、以上」
戦艦『大和』中破の部分が声のトーンが下がったが、張りのある声だった。それを聞いて栗田中将が言う。
「よろしい、連合艦隊司令部にその旨、報告をせよ。なお、艦隊はこれより進路180度速力20ノットでスリガオ海峡を経てブルネイに戻る」
そして、伝令兵が無線室に向かっていくと、私は不意に転移のときと同じ感覚に陥る。
待て、まだこれからオルデンドルフ艦隊と海峡退避戦があるかも知れないのに、戻ってはだめだ。
降臨限界までまだ時間があるはずなのに、眼の前の景色はゆらりと揺れて暗転する。




