第7話 草鹿龍之介との邂逅(後編)
「ハワイ沖西二〇〇海里は直線で二八〇海里か、あとハレイワの秘密基地……敵もさるもの引っ掻くもの。侮れませんな」
顔を曇らせた草鹿少将から飛び出したのは、攻撃するともしないとも分からない言葉だ。
もともと、ハワイ作戦計画立案時から作戦に否定的なのが南雲、草鹿のコンビである。真珠湾攻撃中にさらなる攻撃対象が出現した場合の判断が攻撃か撤退かと問われれば後者に違いない。それでは米軍からの追撃を受けて空母がやられてしまう。だから、先に潰すべき攻撃対象を提示しておけば、司令部では無視できなくなると読んだまでのことだ。
「島村様、いま日本海軍の空母航空戦力のほぼすべてがここに集結しております。その我軍の受ける甚大な被害とはどれほどのものでしょう?」
「『赤城』、『加賀』、『蒼龍』の三空母が艦載機とともに海の藻屑となるでしょう」
私はとりあえず被害担当艦として命数の薄い三隻を仮定し、草鹿少将に告げる。
「うーむ、他でもない島村様のお見立てならば……これは早く南雲中将のお耳に入れねばなりませんな」
険しい顔つきでしばらく唸るようにしていた草鹿少将に伝令兵がやってきて言う。
「参謀長閣下、失礼いたします。航路上に商船らしきものありとのことで、急ぎ羅針艦橋にお越し下さい」
「うむ、分かった。すぐ参ろう」
草鹿少将は失礼を詫びたうえで、この参謀長室を自由に使ってくれて構わないことをいい添えて羅針艦橋へと去っていき、作戦の話は一旦お開きとなった。




