第59話 天佑ヲ確信シ全軍突撃セヨ
空襲が途絶えて一時間、栗田艦隊は西へと向けていた進路を一転し東に向けて進路を取り直す。
これ以上の航路欺瞞は西村艦隊との分進合撃の作戦を破綻させてしまう恐れがあったからだ。
栗田艦隊は夜間のうちにサンベルナルジノ海峡を抜けて、太平洋へと出る。私はここでサトミに小声で伊東ハルカになるよう伝える。
そして、ハルカに索敵するように伝えると答えが返ってくる。
「お味方の艦隊以外に見当たりません」
この言葉に一同安堵し、司令部は午前6時まで仮眠を取ることになった。
午前6時、曙光の射す『大和』の上部艦橋に司令部の幕僚が集まってくると、伊東ハルカが艦の前方左を指して言う。
「敵護衛空母カサブランカ級、南東、距離40,000メートル、艦載機らしきものを伴う」
それを聞いて栗田中将が言う。
「先行している『矢矧』に通達し、敵情知らせ、と伝えよ。砲術長、測距儀班に同様に伝えよ」
午前6時30分、『矢矧』より水平線上にマストらしきもの見ゆ、と報告があった。
さらに、近づいてくる艦載機などが『大和』のレーダーに探知され始め、司令部に緊張をもたらす。
小柳少将が栗田中将に言う。
「いかが致しましょう。敵が護衛空母ならば、『大和』でも十分に追いつけるでしょう」
「よし、第一遊撃部隊、全軍突撃せよ」
そして、午前6時58分、戦艦『大和』が初弾発射。これに『長門』、『金剛』、『榛名』が続く。
敵も駆逐艦が煙幕を炊いて逃げ準備をしている。史上空前の空母対戦艦による砲撃戦を前に、こちらも尚書の入れ替えの準備を進める。
「秋山サナエ尚書を頼む」
最高のタイミングで練度バフの降臨だ。
敵は東方面に逃げようとしているため、こちらも南東方面に全速力で追いかける。彼我の距離は約33,000メートルだ。




