第56話 対潜対空警戒を厳にせよ
下部艦橋では森下艦長以下が、上部艦橋では第一遊撃部隊司令部と第一戦隊司令部が詰めており、少し異様な状況となっていた。
ただ、今晩通り抜けるパラワン水道付近は敵潜水艦の出没が予想される危険地帯なので、警戒を強めているという意味では少々異様な状況となっているのも仕方がない。
しかし、初日から徹夜というのも『常在戦場』とはいえ、好ましいものではない。冷静な判断ができる状態を保つためには司令部に休んでもらう他にしかたがない。
私は小声でサトミに言う。
「伊東ハルカをお願いできないか」
サトミは音もなくスルリと伊東尚書の姿に身を変える。
私は栗田中将に言う。
「栗田中将、この尚書は『大和』を中心に40,000メートルの範囲を索敵できる能力があります」
まずは小手試しとばかりに『大和』を含む第一部隊と『金剛』を含む第二部隊の現況を海図の上に再現させて見る。
「これはどういう仕組ですかな」
「八百万の神々の恩寵ですので、仕組みはございません。ですが、能力のほどはお分かりいただけるかと存じます」
「捕捉対象は?」
「船舶、航空機、潜水艦などおおよそのものは探知可能です。また、レーダーと違って実物が見えますので敵味方の判別も大体なら可能です」
栗田中将と参謀長の小柳少将にはソロモン海戦での敵潜水艦索敵撃沈の功績の話もしてようやく納得してもらい、対潜対空警戒を伊東ハルカに任せてもらい、司令部幕僚は半数ずつ仮眠を取る形で対応してもらった。




