第54話 戦艦『大和』と『武蔵』の見分け方
10月23日午後7時、私と鏡サトミは戦艦『大和』型の主砲第2砲塔付近に投げ出された。いつもながら私もサトミも、何一つ身につけていない状態である。私はサトミに土嚢を積んであるところに隠れているように指示する。
私は注意深く周囲を嗅ぎまわすが、重油の臭いはするが、塗料の臭いは全くしない。『武蔵』であれば同じ3連装の砲塔でも塗装替えを行なった直後のはずなので、もっと臭いがしてもおかしくない。
「貴様、何者だっ?」
カンテラの光に照らされて、かなり長身の水兵服を着た男に誰何される。
「私は高天原から参った元帥府の御使い島村実継である。まずは当直の士官を呼べ、お前では話にならん」
「貴様、素っ裸で何様のつもりだ。さては敵の間諜か」
「島村様、と栗田中将からは呼ばれておる。早々に取り次がんと後々困るのはお前ということになるぞ」
「なぜ、栗田閣下の名を……気味が悪い」
そう言うと水兵服の男は私を当直士官の前に突き出す。
幸いなことに山崎という名の中尉が私のことを知っており、主計中佐を通じて私を栗田中将に会わせてくれるという。
「島村様もその格好ではまずいでしょうから」
そう言って士官用の軍服を一揃い用意してもらったが、サトミのことを思い出し、軍服を一揃い余分に用意してもらう。
第2砲塔近くの12.7センチ高角砲の機銃座の土嚢の影に隠れていたサトミ尚書に軍服を渡してどうにか体裁だけは整えた。




