第53話 鏡サトミの能力
ここでも、場を取り持つのは次席水師の役目なのか、島村実継が声を上げる。
「伏見宮様、連合艦隊最後の決戦であるということは承知しました。しかし、その最後にふさわしい戦いというものが私には想像もつきません。どうか、なにか手がかりになるようなお言葉を頂けませんか」
「皆はもう知っての通り、この戦いは機動部隊が囮となって敵機動部隊を引き付け、その隙に水上部隊がレイテ沖に突っ込んで輸送船団を叩くというものじゃ。だが、囮となった部隊が討ち取られ、間隙を突くべき水上部隊が引き返すようなことになったとするとどうじゃ、目も当てられんじゃろう」
「なるほど、それは困りましたね」
「さすがに困ったか」
「はい、何をどうすればよいか全く見当がつきません」
「それでは、面白い尚書を紹介しよう。鏡サトミというんだがね」
従者が一人の尚書を連れて水師営の中に入ってくる。
「伏見宮様、お呼びとの仰せで参内致しました」
顔を上げると結構な美人である。また、溢れ出る神気の量が尋常ではない。
「島村水師、この鏡尚書の能力は『鏡写し』というものでな、文字通り別の者の影武者のような事ができる」
「影武者……ですか」
「今回の戦い、展開が読めぬと申したであろう。鏡尚書がおれば、たちまち望みの尚書に姿を変え、その尚書の恩寵を使うことができるぞ……たとえば東郷チハヤが手元におればと思うたときは鏡尚書に頼めば良い」
次の瞬間には鏡尚書は東郷チハヤの生き写しのようにして、蕭然とそこにいた。
「これは素晴らしい。これでいつでも防御バフが使えるわけですね」
膝を打つ実継をニヤリと見やると、伏見宮は満面の笑みで言う。
「そうじゃ。今回の戦いにはもってこいの尚書じゃろう」
「ということは、今回降臨する御役目は……」
「お主と、鏡尚書を今回の督戦に遣わす」
「はい、承知しました」
そう答えると、二人は早々に戦場に向かった。




