第50話 落日 〜残機34機〜
「空母『翔鶴』と『飛鷹』の仇は取ったぞ!」
歓声が湧く午後8時30分、比較的傷の浅い空母『瑞鶴』が着艦専用艦となり、攻撃隊の帰りを誘導灯を煌々と照らしながら待っていた。
着艦が始まると一機ごとに歓声が湧き、最終的に艦戦17機中17機、艦爆33機中9機、艦攻14機中8機の計64機中34機が帰還を果たした。
小沢中将が言う。
「艦隊進路を東へ向けよ」
この言葉を聞いて古村少将が疑問を呈する。
「小沢中将、お言葉ですが、まだ敵の軽空母3隻が健在です。水上決戦に持ち込めるか疑義があります」
「絶対国防圏を死守するため断固として東進する。最終的に水上決戦を行うのが『あ号作戦』だ」
頑なに東進を主張する小沢中将に加え、前衛艦隊を預かる栗田中将からも東進の進言があり、結局、午後9時に艦隊は東進を開始した。
陣形は当初の通り水上決戦部隊としての前衛部隊が前、空母部隊は遅れて後ろから続く形となった。
この24ノットで進む狂気の艦隊をどうにか押し留めたのは日が変わった21日未明の連合艦隊司令長官豊田大将の『あ号作戦中止』の命令であった。
空母艦載機が34機を残すのみとなったこと、撃ち減らしたとはいえ敵空母部隊の活動が活発なこと、タンカー2隻の撃沈で艦隊の行動範囲が大幅に制限されたことなどから『あ号作戦』の遂行は難しいと判断されたようだ。
小沢中将が苦渋の決断を下す。
「艦隊進路を北西に取れ」
結果論から言うと米機動部隊も西進を進めており、そのまま小沢機動部隊が東進を続けていれば夜戦の機会もあったかも知れない。
敵戦艦は『ワシントン』、『アイオワ』、『ニュージャージー』、『サウス・ダコタ』、『インディアナ』、『アラバマ』、『ノース・カロライナ』の7隻の錚々たるラインナップであった。




