第48話 一撃講和の一撃とは
そろそろ潮時ではと呼びかけようとすると、小沢中将が声を上げる。
「まだまだ、沈んでおらん護衛空母が5隻も残っておるそうだ。さて、残敵掃討といこうじゃないか」
それに呼応するように古村少将も言う。
「そうです。『翔鶴』の仇討ちも残っとりますよ」
司令部全体でそうだそうだ、と同調する声も多い。
もしここで、艦隊をまとめて帰りましょうなどと言えば非国民の誹りを免れないだろう。
私は小沢中将に長官公室で二人で話がしたいというと、嫌がらずににこやかに受けていただいた。
午後5時、『大鳳』の長官公室で私は言う。
「小沢中将、ここが引き時だと申し上げたら、いかがなさいますか」
「いや、全く理解できません。敵は残り護衛空母5隻、こちらはまだ82機の攻撃隊が用意できます。また、空母戦力の潰し合いが終われば、『大和』『武蔵』の水上戦力をもって敵を駆逐するのみです。最終的にサイパン島から米兵を追い出すまでが『あ号作戦』ですので、GF(連合艦隊)司令長官がやめろと言うまで引き上げるつもりはありません」
現場指揮官としては満点の答えではあるのだが、『一撃講和』を考えたときに敵正規空母群を太平洋から一掃した程度では『一撃』にはならないのか、と思い返す。
そう、米軍がサイパン島から引き上げざるを得なくなるまでやって、ようやく『一撃』になるかならないかだ。やんぬるかな、私はもう一言も発せなくなっていた。
「ははは、さすがの島村様も今日の攻撃隊の損害の多さに驚かれましたかな。明日には手持ちの飛行機が無くなることもあるでしょうが、もうしばらくはお付き合い願いますよ」
そう言って、長官公室での会話を終えると二人で再び艦橋へと戻っていった。




