第5話 いまや赤城の艦上に
12月6日、冬のハワイ沖の北太平洋は灰色の荒海である。
転移門に同時に手を触れた私とチハヤは一糸まとわぬ姿で広い一枚甲板の艦上に放り出される。
「やっぱりこうなるんだ……」
チハヤは、顔を真っ赤にして両手で大切な部分を隠しながら体育座りよろしく座り込んでしまった。
「私は慣れてはいるんだが……東郷尚書令はここで待機してくれ。何か着るものを持ってこよう」
私は船の大きさと左舷艦橋であることから、『赤城』か『飛龍』のいずれかに降りたものと見当をつけて艦橋の方へと歩いていくと、その途中で艦橋から走ってきた士官服の男に呼び止められる。
「貴様ら、何者だ?」
「私は高天原からの御使いだ。分からなければ、佐官級以上の上官に伝えてくれ」
「高天原からの使いだと? 所属を言え、名を名乗れ」
「元帥府の御使い、島村実継だ。ここが赤城の艦上なら草鹿参謀長がいるはずだ。島村が来たと伝えてくれ」
「なんだ、なぜお前らが草鹿少将を知っておる?」
とっさに相手の階級章を見て依頼する。細線に星2つは中尉だ。
「支那事変以来の知り合いだ。ハワイまで時間がない。中尉殿、とにかく早く取り次いでくれ」
私のハワイといった言葉が中尉には刺さったようで、後ろからついて来た男と相談するとどうにか取り次いでくれそうな雰囲気ではある。しばらく、やきもきとした時間が流れてようやく答えが出たようだ。
「島村殿、草鹿龍之介少将がお会いになられる」
中尉はそう言うと来ていた上着を脱いで使うように促す。私は先にチハヤに上着を羽織らせると、なんでもいいので着るものを二揃い用意するよう伝える。すると、中尉は主計の士官に依頼して草鹿少将に会う前に冬服の第二種軍装を用意してくれた。衣服を身につけるとひと心地ついたのか、チハヤから文句が出る。
「全然、身体に合わないんですけど、非道くないですか」
目をやると確かに胸周りがやたらとキツそうで、袖や裾は余りまくっている。宜なるかな、だ。
「仕方ない。この時代には女性軍人なんてものはいないんだから今は我慢してくれ」
そう言って、案内の中尉の行く通りに進むと第2中甲板の参謀長室の前まで来る。ノックの音とともにドアが開かれると、中には草鹿少将がテーブルを背に立っていた。




