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第40話 秋山サナエの恩寵
半時ほどが経った頃、うら若い秋山サナエが水師営にその姿を表した。
「お呼びに応じて参内しました、秋山サナエと申します」
慇懃に腰を折って挨拶するサナエに伏見宮が尋ねる。
「お主、この島村水師と昨年夏に、コロンバンガラ島沖に降臨して督戦をしたというのは本当かね」
「はい、確か去年の7月のことです。小規模な夜戦でしたが、伊崎少将坐乗の軽巡洋艦で三隻の敵巡洋艦を撃破する戦いを督戦いたしました」
「その時の秋山尚書の恩寵は何か覚えていないかね」
「その、私はただ降臨しただけで……」
秋山尚書が言葉に詰まると、島村水師が言葉を受けて話し始める。
「伏見宮様、秋山尚書の恩寵は熟練度バフでして、船の操艦や飛行機の操縦練度などを極限まで引き出す類まれなるものでした。この度の海戦では飛行機搭乗員の練度が著しく低いと嘆いておられましたので、ちょうど良いかと思いまして推挙しました次第です」
「ほう、それは面白い。それではこの度の戦、島村水師と秋山尚書に督戦を命じる」
「「はい、承知いたしました」」
二人はその日のうちに元帥府をあとにした。




