第32話 レーダーの実演
ラバウルを出港して17時間あまりたち、三川艦隊はブーゲンビル島の北を一路東へ向かって進んでいた。
午前8時、『鳥海』艦橋で第8艦隊司令部が集まっているなかで、三川中将が私に言う。
「島村様、昨日のちょっとした試験というのは、何かそろそろ教えて頂けませんか」
「三川中将、レーダーというものはご存知ですか。現在アメリカ軍が実用化しているものですが」
「電探のことですかな。電波を発射して跳ね返ってきた電波の強弱で敵の位置を調べる」
「はい、それと同様のことを伊東ハルカ尚書も行うことができまして、これから出現する敵の索敵機の位置を探索させます」
私は後ろからハルカを呼び、中央に立たせると西に向かせて探索するように言う。
「お味方以外、敵らしきものは見えません」
「ならば、東の方を探索してもらおう」
ハルカに反対側を向かせて探索するように言う。
「東の方角140海里に敵機あります。標識は豪州軍機」
それから待つこと20分、艦橋マストの方から報告が来る。
「東の方角から敵機発見、とのことです」
「ほほう、素晴らしい」三川中将はそう言うと「航路欺瞞のため三六〇度回頭」を指示する。
「米軍ではこれを実用化しておるんですか?」
「はい、もう少し精度は劣りますが」
私は変に怖れさせないように、やんわりと言う。
「こんなものが実用化されているなら夜襲や奇襲など通用しなくなりますなぁ」
三川中将の言葉は時が下るに連れ実現していくので笑うに笑えない。




