第31話 ラバウル港にて
8月7日、ラバウル港に停泊している重巡『鳥海』の甲板らしき場所に転移させられた私とハルカは、当然のことながら素っ裸だ。
伊東尚書を短艇の影に隠して、私がマストを見上げると、中将旗が指揮官旗としてはためいている。三川軍一中将坐乗の第8艦隊旗艦、高雄型重巡洋艦4番艦の『鳥海』で間違いない。
「貴様ッ、何をしておる」
後ろから声をかけられ吃驚したが、細線に星1つの少尉の階級章を見て少しホッとする。
「貴様とは何だ。私は高天原の元帥府からの御使い島村実継である。頭が高い」
私が語気を上げると、気圧されて言葉遣いが直るから面白いものだ。
「元帥府から……何用でお越しでしょうか」
「午後からの作戦の話で三川中将に話があって参った」
「三川中将は重要な会議に入っておられてまだ出てこられておらぬ」
「ハワイ沖海戦の島村が参ったとお伝えくださらぬか、こちらも急いでおるのだ」
「わ、分かりました。取り次ぎは致しますので、まずは、お召し物をお召しください」
こちらも、裸では恥ずかしいので防暑服を2着用意してもらうよう伝える。
渡された防暑服を身につけると、伊東尚書の分を手渡してようやく人心地つける。
午前11時半過ぎに艦橋に通されると、初老で目が印象に残る三川軍一中将がそこにはいた。
「真珠湾の島村様でいらっしゃいますか。お噂は草鹿少将から伺っております。私が三川です」
「島村です。こちらは尚書の伊東といいます。本日は彼女が貴艦隊の索敵役を仰せつかります」
「と、言いますと我が艦隊が出撃することはご存知でしたか」
「はい、ガダルカナル島のルンガ泊地に向けて殴り込みに行くところまでは存じ上げております」
「結果は吉と出ますか、凶と出ますか」
突然の問いに私は驚いたが、これから出撃する艦隊の手前、悪いとは言えない。
「敵輸送船を狙って吉です」
「ほう、そうですか。参謀会議でも敵艦隊か輸送船かどちらを主目標とするべきか悩んでいたのですが、輸送船ですか。ありがとうございます」
「あと、明日の午前8時にちょっとした試験をしたいので司令部の皆様は艦橋に集合して頂けませんか」
私がそう言うと、三川中将は了解して司令部各員への伝達を指示すると艦橋をあとにして出ていった。




