第30話 伊東ハルカの恩寵
「ならば、重巡と輸送船の刺し違えでも構わないとおっしゃいますか」
「無論、それぐらいの気概が必要じゃ」
「それでよろしければ、夜戦向きの恩寵を備えた尚書を見つけておりますので連れて行きたく存じます」
「お主は次々に尚書殿の女子に手を付けておるんじゃのう。よろしい、尚書に使いをやろう」
反論する実継を聞く耳を持たずと云って、ニヤリと見遣って、伏見宮は尚書殿に使者を出した。
尚書殿から伊東ハルカが参内したのは、半時ほど時間をおいてからだった。
「お呼びでしょうか。伊東ハルカと申します」
顔を上げると整った顔にぷるんとした唇、そして何より大きな胸が女官装束の下から主張している。
「私が水師営の伏見宮だ。お主、2月の末頃にそこの島村水師と下界に降臨したことはないか?」
「はい、ございますが……それがなにか……」
ハルカは身じろぎして、頬を赤く染めながら言う。
「下界で何をしたのか覚えていないかね」
意地悪く仔細を尋ねる伏見宮を見るに見かねた島村次席水師が答える。
「スラバヤ沖に降臨し、伊東尚書には索敵の恩寵がありましたので、海戦の発生以来ずっと敵艦隊の動静を報告してもらっていたのです」
「ほう、索敵の恩寵とは具体的に何が見えるんだね」
「敵味方両方の艦艇、飛行機、潜水艦に至るまで戦場にあるものおよそ全てが見えます」
「レーダーのようなものかね、島村水師」
「はい、潜水艦までもが手に取るように見えるようで、レーダーとソナーを兼ね備えたようなものになります」
「なるほど、夜戦にはうってつけの恩寵だな。よろしい、島村水師。伊東ハルカ尚書と共に督戦を命じる」
「はい、承知いたしました」
二人はそう言うと足早に水師営をあとにした。




