第3話 正規空母三隻喪失
暫時休憩となった水師営で実継は伏見宮にお伺いを立てる。
「伏見宮様、このたびの我軍の予想損失の空母三隻は奇襲攻撃の失敗によるものでしょうか?」
「いやいや、奇襲攻撃失敗なら予想戦果の敵戦艦八隻の撃沈破は起こり得ない。よって、奇襲攻撃自体は成功と見るべきじゃな。そして、被った損害は真っ当に考えると奇襲から立ち直った米軍基地航空隊からの反撃によるものか……それとも、行方をくらましてる『エンタープライズ』からの攻撃隊に逆に奇襲で返されるのかもしれん」
そう言うと伏見宮は静かに目を閉じて、瞑想に耽っていた。
半時ほど時間が過ぎ、水師営に東郷チハヤが現われる。年の頃は二十歳手前といったところで伏見宮とは親子以上に離れている。また、容姿は整っており髪型は他の女官と同じく長髪の先を髪留めで結わえている。
「東郷チハヤです。お召とのことで参内いたしました」
凛とした雰囲気をまとったチハヤは、張り詰めた場の空気に怖じることなく挨拶をすませる。
「よく参られた。私が伏見宮鳴戸だ。聞くところによるとお主、支那事変の際に宜昌基地に降下し戦闘部隊に神の恩寵を与えたというが事実か?」
「はい、事実です。結果としてですが」
「結果としてということは、意図せずしておきたということか」
伏見宮は、じろりと少し俯いたチハヤの顔を覗き込むようにして見る。
「はい、意図してあんなことは致しません……」
顔を朱に染めたチハヤに対し、実継は諭すように言う。
「東郷チハヤ君、ここできみの過去の行いを罰するような話はしないつもりだ。正直に話してくれ」
「分かりました。昨年9月のあの日は島村水師様の宜昌への地上降下の補佐役を仰せつかって、宜昌基地に島村水師様用の転移門の準備をしたのですが、誤って私が転移門に先に触れてしまい宜昌基地の掩体壕の一つに転送されてしまったのです」
そこまで話すとチハヤは赤く火照った顔を伏せ、声のトーンを落として話す。
「その……地上降下の副作用といいますか、まさか一糸まとわぬ姿で送り出されるなどとは思いもよりませんでしたから……とにかく人に出会わないように掩体壕の奥の方に隠れました」
ざわつく水師らの中からも、『そうだよ、裸で高天原からの御使いだと名乗るのは恥ずかしいものだ』、『なんと尚書が転移されても同じ症状が出るのか』といった反応が洩れる。




