第28話 元帥府戦史研究室
私とイソエは、今回もこっそりと高天原へと帰ってきた。
【戦果】空母『ヨークタウン』、『ホーネット』撃沈確実
空母『エンタープライズ』撃破確実
重巡『ミネアポリス』、『ニューオリンズ』他4隻 撃破確実
【損害】空母『蒼龍』沈没
駆逐艦『嵐』沈没
未帰還機 29機
元帥府に戦場からの転移を報告すると、またもや元帥府戦史研究室に出頭するよう命じられた。
戦史研究室は元帥府の片隅にある、例の伏見宮水師の通常の執務室だ。
「この度はご苦労だった。南雲司令部の憍慢を戒め、運命の五分間を乗り切り、敵空母二隻撃沈一隻撃破の快勝劇、ミッドウェー島の艦砲射撃とお見事だった……」
私とイソエを迎えた伏見宮は、いつもの落ち着き払った口調で言う。
「今回は負け戦を『快勝劇』につなげたんですから文句はないでしょう」
伏見宮の言葉を借りて、私は少し毒のある物言いをする。
「文句がないとお思いかね、島村水師。もっと見聞を広めたほうが良いと思うぞ。今回も、色々と意見が出ておってな、まずは、あのような味方を騙す手法を用いなくとも、運命の五分間だけ直掩機を増やして対応しても良かった、というものや、ミッドウェー島の艦砲射撃に『大和』を使わないのはもったいないというもの……」
「伏見宮様、お言葉ですが、運命の五分間はその後も敵の攻撃はずっと続きますし直掩の零戦隊も限度があります。それより、戦艦『大和』を使いたかったというのは、単なるロマンではないでしょうか」
いつもながら、素直に人を褒めることのない伏見宮に私は憤懣やる方ないといった風に抗議をする。
「それだけじゃない、島村君は『エンタープライズ』が気に入っているのだろうが、なぜしっかり撃沈しないのかという声も多く聞かれた。それよりなにより、戦略的に価値のないミッドウェー島を攻略するのは、今後の補給を考えると全くの無駄であると失笑を買っておったよ」
「ミッドウェー島攻略はこの作戦の目的じゃないですか。そこを否定するのはさすがに行き過ぎではないでしょうか。そもそも誰も手を挙げなかった中でそのような評価はありえません」
私が旋毛を曲げると、伏見宮はとりなすように言う。
「私は島村水師の作戦指導は見事だったと褒めておいたのだから、君の株が落ちたわけじゃない」
隣では山本尚書令が残念を通り越し、既に帰りたそうにしている。
連合艦隊は遂に勝ったのだから私の中では溜飲が下がったのだが、水師営の見方はまた違うようだ。
(山本イソエ篇・了)
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