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第16話 山本イソエの恩寵

 伏見宮が恨めしそうに次席の島村実継に言う。


「実継よ、これだけ案件のハードルを上げたのじゃ。そろそろ引き受けの潮時と思わぬか。失敗したとて所詮、負け戦じゃ。しつこくお主の責任を問うやからもおるまい。それに希望とあらば尚書殿から誰か好みの尚書を連れて行っても良いぞ」


「そこまでお約束いただけますなら、攻撃の恩寵バフを有する面白い尚書を見つけましたので共に参りたく存じます」


「ほう、この半年間、何かやっておると思っておったが……して、名をなんという?」


「山本イソエと申します。少々おきゃんなところがありまして、腕っぷしが強く、ギャンブルにも強い面白い尚書でございます」


「面白い、すぐに尚書殿に使いをやろう」


 伏見宮はすっかり機嫌を直して、水師営の外を見遣っていた。



 しばらくして伏見宮が休憩終了を告げると、水師営の入口には明眸皓歯、ショートヘアの尚書が既に立っていた。


「皆のもの、島村次席水師の推挙がありミッドウェーに共に降らんとする山本尚書である」


「尚書の山本イソエと申します」


 東郷チハヤとは年は同じだが、異なる芯の強さを感じさせるボーイッシュな女性で、媚びるところなく挨拶を済ませる。


「よく参られた。聞くところによるとお主、2月にクェゼリン環礁に降下し戦闘部隊に神の恩寵バフを与えたというが事実なのか?」


 山本イソエは袖で顔を半分隠しながら、言葉を紡ぐ。


「はっ、そちらの島村水師と地上に降りて……素っ裸だったから、恥ずかしかったんですけど……そのあと第六根拠地隊司令部の八代少将に会いに行きました。なんでも水師殿が『エンタープライズ』という空母に因縁があるみたいで、どうしても一撃お見舞いしたいと」

 実継は言葉を繋いで言う。

「『エンタープライズ』はハワイ沖で一度沈めたはずの空母だったんだが、どうやら撃ち漏らしていたようだ」


 肩を落とす実継に、伏見宮が言う。

「ほう、撃ち漏らしとは頂けませんね。空母『エンタープライズ』と云えば、ミッドウェーの戦いにも出てくるに違いない。島村水師、撃ちもらしの後始末を付けていただけませんかな?」


 がっくり首肯する実継に、したり顔の伏見宮が言う。


「島村水師よ、山本イソエ尚書令と共に督戦を命じる」


 島村水師とイソエは蕭然として、水師営をあとにした。

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