第14話 元帥府戦史研究室
私とチハヤは、艦隊が敵哨戒圏を抜ける頃にこっそりと高天原へと帰ってきた。
【戦果】空母『エンタープライズ』撃破確実
戦艦『アリゾナ』、『オクラホマ』撃沈確実
戦艦『ネバダ』、『カリフォルニア』、『テネシー』、『ウエストバージニア』撃破確実
重巡『ノーザンプトン』撃破確実
【損害】未帰還機 25機
特殊潜航艇 5隻
元帥府に戦場からの転移を報告すると、元帥府戦史研究室に出頭するよう命じられた。
戦史研究室は元帥府の片隅にある、水師営とはまた別の建物になる。例の伏見宮水師の通常の執務室となっている。
「この度はご苦労だった。真珠湾奇襲攻撃の成功、敵空母部隊への攻撃、そして無傷での戦場離脱。見事にその職責を果たした……」
私とチハヤを迎えた伏見宮は落ち着き払った口調で歓迎してくれている。しかし、ひと癖も二癖もある伏見宮はそれだけでは言葉を終わらせない。
「……という見方をするものもいれば、別の見方をするものもいる」
「と言いますと?」
「一番多く聞かれたのが、真珠湾への再攻撃をかけなかったことへの批判じゃな。敵の航空戦力のほとんどを潰していたにも関わらず、真珠湾の港湾施設や重油タンクを無傷で残したのはもったいないとの声が聞かれた」
てっきり水師営を上げての称賛を得るに値すると思っていた俺への評価は一転し、批判にさらされているようだ。
「お言葉ですが、基地飛行場の破壊はあくまで一時的なものでたちまち復旧できるものです。いつ反撃にあうか分かりません。それに港湾施設なんてコンクリートの塊、空襲で破壊するのは困難です。また、重油は燃えにくいので爆弾で火をつけたとして燃え広がるようなものでもありません」
「そう言われるな、もっと口の悪いヤツは臨時で陸戦隊を組織してオアフ島に上陸して脅し上げていれば、ハワイ占領もあり得たとも言っている」
「「ハワイ占領っ」」
私とチハヤは思わず、面食らって声にならない声を上げる。
「伏見宮様は私の指導が良くなかったと仰りたいのですか?」
「私の評価は最初にも言った通り、よくその職責を果たしたと合格点をつけているのだがね」
連合艦隊はよく戦ったが、手放しで大勝利とはいかず、めでたさも中くらいなりと言ったところだろうか。
(東郷チハヤ篇・了)
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