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第10話 トラ・トラ・トラ

 そして、午前3時22分『赤城』宛に「トラ・トラ・トラ(ワレ奇襲二成功セリ)」が届くと艦橋はどっと沸いて、草鹿参謀長は南雲司令の手を掴んで男泣きにむせいでいた。南雲司令は草鹿参謀長の手を握り返して言う。


「まだ虎口は脱していない。勝ち切るために気を引き締めよう」

 その通りで、日本の機動部隊は敵の空襲圏内にあって、何ら安全になっていないのである。


 緊張の続く司令部に午前4時24分、攻撃第2波の「ト連送(全軍突撃せよ)」が入電する。その後、午前4時45分を過ぎた頃から攻撃第1波が帰還し始め、各艦とも収容作業で多忙を極める。


 午前6時頃に攻撃第1波、艦戦43機中41機、艦爆51機中50機、艦攻89機中87機、計183機中178機が帰還したと報告された。未帰還機5機は奇襲だったとしても申し分ない数字である。


 しかし、それを聞いたチナツはかげのある面差しで俯いて言う。

「水師様、申し訳ありません。全機帰還を目指したのですが……5機、10名の未帰還者を出してしまいました」

 実戦で生還率97%は十分過ぎるとは思ったが、チハヤはそれでは満足しないらしい。


「どれだけ防御の恩寵バフを与えても無敵になれるわけではない。しかも、今回の敵は世界で最強とも言える米軍が相手だ。犠牲が5機で済んだのは東郷尚書令のおかげだ」

 どのように言い繕っても仕方がないのだが、チハヤが意気消沈してしまうと神気まで衰えてしまいそうで不安になる。 


 そして、午前6時5分。

「『翔鶴』索敵2号機より入電、敵艦隊ラシキモノ見ユ。ニイハウ島ノ南一七七度二〇カイリ。進路東ヘ二〇ノット」


 待ちに待った『エンタープライズ』の発見かと思われたため、司令部から「艦種知ラセ」と返信する。


 次の入電は、午前6時20分になってからだった。

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