確実な化け物との戦い方
貴方はとても上手に腕を扱う。彼も同じだった。
????
「味山さん、大丈夫か!?」
後ろから田村に声をかけられる。他にももっと言いたいことがあるだろうに。
「大丈夫です。やれます。」
短く田村に応える。眼前八メートル程に耳の化け物が佇む。次近づかれたらマズイ。
あれはどんどん学習している。木の根に触れることがない。先程も木の盾をそのまま壊そうとするのでなく、根を避ける事を優先させていた。
瞼が重い。入眠前のような重量を伴う眠気がすぐそこまで来ている。俺の体力も限界のようだ。
「十分持たないな。これじゃあ……」
耳の化け物は警戒しているのか、なかなか突っ込んで来ない。間違いない。こいつどんどん賢くなっている。
宝石に意識を傾ける。温かい。カイロの熱をジワリと広げたような温かみ。
出来る。俺のやろうとしていることが今なら出来る。時間稼ぎをする余力はない。この化け物に生半可な戦術は通用しない、それはこの半日で嫌というほど思い知らされた。
拘束しての急所への一撃も、大質量を持って身体を潰すのも全て、化け物の命を奪う事は出来なかった。常識では考えられない生命力。
それを刈り取る必要がある……!
その為にはまず。
「田村さん、すみません。お願いがあります。」
「なんだ? あれと代わりに戦えというもの以外ならば今の俺は大抵のことは聞くぞ」
軽口を返す余裕があるみたいだ。さすがはプロの兵士。精神的、体力的共に追い詰められていたとしても最後の砦とでも言うべきものが備わっているのだろうか。
これなら……。
「少し変わった事をします。俺が何をしても貴方を傷付ける事はありません。信じてもらえますか?」
「おう、やれ。」
即答だった、え? いいの?
「味山さん、そう心配するなよ。アレと戦っているのは、いや戦えるのはアンタだけだ。負傷した俺を置いて行かずに、分の悪い戦いに挑むアンタを信じない理由がない。」
田村が、当たり前のように言い放つ。そして
「アンタを信じるよ。探索者。」
親指を立てて田村が笑う。俺も釣られて笑ってしまった。
よし、勝てる。
耳の化け物に視線を戻す。左右にウロウロしているヤツは未だにこちらへ向かう様子はない。迷っているようにも見える。
今しかない。
田村の方を見ずに、田村へ意識を向ける。左手を握り締める。強く無理やりにではなく、宝石を包み込むように固く優しく握りこむ。
「うおっ! なんだ、すげえ!」
後ろから田村の驚いた声が聞こえる。チラりと後ろを確認すると、巨木に寄り掛かっている田村の周りの地面から沢山の木の根が生え出て、田村の身体を包みこもうとしていた。
幾重にも重なった木の根がまるでボールのようになりながら田村をその中には取り込む。
そのまま球状になったかと思うと田村を包み込んだまま、巨木のうろにゆっくりと沈み込んでいく。すきまを意図的に開けている為に呼吸は問題ないはずだ。
田村が完全に木の根に包まられる前に叫んだ。
「味山さん! 勝てよ!」
木の根の繭に包まれ、田村が地中に逃れる。これでいい。
耳の化け物はその様子をじぃと見つめて、音を発した。
「Bonne intuition」
これで、耳の化け物が俺より先に田村を狙う事はなくなった。あの狡猾で邪悪な化け物の事だ。先程もそうだったが、ヤツは必ずどこかで田村を狙うだろう。
より弱いモノから猟る。目の前の化け物がそれを知らないわけがないと俺は確信めいた予想を持っていた。
「俺でもそうするからな……」
俺もあの化け物と同じ立場なら、そうするだろう。灰色の怪物供を狩り殺した時も同じだった。
違うのは、あの時は俺が狩る側で、今回は俺が狩られる側というだけだ。だが、必ずしも狩る側がいつも成功するわけではない。灰ゴブリンを狩る時の俺もいつ死ぬか分からない程ギリギリの勝利だった。
獲物を狩るモノは、獲物に狩られることもある。
当たり前のことだ。
「今回も同じだ。お前は、俺を狩ろうとして、これからその獲物の俺に殺されるんだ。」
準備は終わった。後はやるだけだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます!




