56話 ギルドにお願いしに来たら酒盛りになったよ
ソードとまず冒険者ギルドに向かう。
少年もついてきたが、なぜかにらまれている。
「……? 少年よ、どうしたのだ?」
「うるせぇ! お前だって少年じゃねーか!」
何言ってるんだ、こんな美少女を捕まえて。
さては照れているな?
「少年よ、私ほどの美少女を前に照れるのはわかるが、いい加減私も〝少年〟と揶揄され飽きていてな。別の表現にしてくれないか?」
「ハァ? お前、頭おかしーのかよ?」
なぜか狂人扱いされたし。
ソードが笑ってる。
「いや、至って正常だ。……まぁまぁ、そう照れるな」
「だから、照れてねーし、なんで照れるんだよっ!」
思春期の少年は気難しいなぁ。
ソードは私と少年のやり取りをサクッと無視し、ギルドに入った。
で、カード提示。
「オールラウンダーズのソードだ。ギルマスと話をしたい」
で、奥に案内される。
一緒に行こうとしたら、受付嬢に阻止された。
「え……なぜだ?」
受付嬢、ニッコリ。
「ごめんね、【迅雷白牙】様に憧れてるのはわかるけど、ご用があって、ギルドマスターとお話ししないといけないのよ。迷惑になるから、帰ろうね?」
え……私に向かって言ってるのか?
ソードが振り返ってため息をついた。
「インドラ、お前もカードを提示しろ」
慌ててガサゴソ探る。
「わ、わかった」
イソイソ出して受付嬢に見せると、受付嬢、固まった。
「ソードとパーティを組んでいる、インドラだ。そもそも私の用事なのでな、任せっきりはよくないと思うので、同行したい」
「し、失礼しました、どうぞ」
それで通された。
「そうか、私もソードに任せたままではいけないな。これからはちゃんとカードを見せるように心がける」
「いや、今回間が悪かっただけで、そこはいんだけどよ。……おい、お前は違うだろ、帰れ」
ん? 少年がついてきてた。
受付嬢、慌てて止める。
「重ね重ね、申し訳ありません。――ちょっと、サジー! アンタがウロチョロしてるから、パートナーの方までアンタと同類だって思っちゃったんじゃないの! 帰りなさい!」
サジー少年、つついたら癇癪を起こしそうな顔をして私をにらみつけてる。
ついでに泣きそうだ。
「残念だが、私は独身主義で、恋人を作る気は無い。少年よ、広く目を向け、他の少女に恋をするが良いぞ」
「いや、それ、勘違い。お前の自惚れ。あの少年、別にお前に恋してないから」
冷静にソードがツッコんだ。
*
「……っつーわけで、一……じゃ少ないか、二~三頭捕まえて研究対象にしたい」
ソードが、私が凄腕の魔術師で魔導師で、ついでに料理向上の研究もしていて、この町のミルクに目を留め、研究対象として魔物を捕獲したいと願い出たら、ギルドマスターに困った顔をされた。
「いや、冒険者ギルドは、まぁ、そこまで拘ってないので、良いんですが……。特産品とはいえ、出荷出来るシロモノじゃないので、コレ目当てで来る客もいませんし、買っても日持ちしませんからね、ただ、ミルクを売って生活している人間が多いので、それを考慮して頂ければ、と」
「安心しろ、広めるつもりはない。広まったとしても、その対策はあるので伝授する」
私は力強く言ったが、困った顔のままだ。
「……そうですか……」
うぅむ、信じてもらえない。
「……仕方ない、まずは私の研究結果の一部をお渡ししよう。これを味わって、考慮してもらいたい」
酒を出した。
食いついた。
「……こ、これは、酒? え? 酒を、作った?」
ニヤリと笑う。
「魔術を駆使しないと作れないので事実上私だけしか作れん。ソードも愛飲しているぞ? ……少し、味見してみないか?」
ついでにツマミも出した。
薄切りパンにバターモドキを塗ったものに、魔物肉で作ったハム。
「ちょうだい?」
うん、言うと思ったよ、ソード。
試飲会。
「これはうまい! マジうまい! こんなの飲んだことも食べたこともねーぞ! 美味すぎる!」
「そうか。……これらは私の研究結果だが、表には出ていない。私しか作れないのでな。まぁ、拠点では売り出す可能性はあるが……恐らく拠点で売り切れるだろうな」
「え……」
絶望顔のギルドマスター。
瓶を取り出して見せた。
「一本ずつ、進呈しよう。……それでだ、ギルドマスターは納得いただけるものとしてだが、問題は商人ギルドだな。果たして納得していただけるものかなんだが、何とか口を利いてもらえないだろうか?」
ギルドマスター、キッパリ首を縦に振った。
「お任せ下さい」
立ち上がると、受付嬢を呼んで何事か話し、
「少々、お待ちください」
と、待つこと十分。
その間に、さらに酒の追加とツマミの追加。
……なんだろう、宴会みたくなってきたけど、仕事大丈夫なの?
ノック音と共にドアが開いた。
「おい! 話があるのはいいとして、呼びつけるとはどういう……酒盛りしてるのか!」
酒盛りしてるのだ。
そうだよね、呼びつけておいて酒盛りしてるって、怒るよね。
「なんだ! それを早く言え!」
あ、怒ってないや。
むしろ喜んでるや。
冒険者ギルドマスター、サクッと無視してソードを紹介。
「おう、来たか。こちら、かの有名な【迅雷」
「Sランクパーティ、オールラウンダーズだ。お見知りおきを」
ソード、遮って自己紹介。
「おぉ! もう町で噂になってますぞ! かの有名な【迅」
「オールラウンダーズです!」
ソード、ニッコリ。
じんわり耳が赤くなってるのは、やっぱ本人も痛々しい二つ名が恥ずかしいらしい。
ギルドマスター、私を指して紹介。
「こっちがパートナーのインドラ様だ」
あ、〝様〟がついた。
恐らく酒のせいで昇格したらしい。
「インドラだ。実は、頼みがあってギルドマスターに相談していたところなんだ」
で、ソードがさっきの説明をもう一回。
商人ギルドマスター、え、俺には酒ないの? って顔しながら聞いている。
聞き終わった後、渋面。
「うーん、まぁ、そういうことですと、反対はしづらいのですが……。万が一にも不利益が生じたら、という懸念はあるものなのですよ。何かこちらにも旨味があると、何かが起きたときに説得しやすいのですが」
腕を組んで唸るが、まぁ、そこまで反対はしないらしい。
「では、旨味があればいいのだな?」
「……どんなでしょう?」
「まぁ、まずは私の研究結果の一部を味わってくれ」
「はい! 是非いただきましょう!」
待ってました! とばかりに食いつく商人ギルドマスター。
飲んで、
「なんじゃこりゃー‼」
叫んだ。
「私が作った酒だ」
商人ギルドマスター、目をむく。
「こ、こ、こ、これを? ……インドラ様、が、作った?」
商人ギルドマスターからも〝様〟をつけられた。
「そうだ。同じように、ミルクも研究したいのだ。私の勘では、きっと素晴らしいものが出来上がる……あ、酒ではないがな。その研究結果を渡そう。それを名物にすればいい。ミルクというものは日持ちのしないもので、それを日持ちさせるには高等魔術を駆使しないと無理、つまり私でないと無理だが、その代わり、単にそのまま飲む、以外の食品に加工すれば、それはそれはこの町の発展につながるぞ? 何しろ、『ここでしか味わえない料理』になるのだから」
商人ギルドマスター、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「このパンにつけたものは、私がミルクで作った『あるモノ』の代用の為に作ったものだ。――まぁ、これもうまいのだが、ミルクで作ったものも食べたい。ので、そのチャージカウとやらを捕獲し連れて行く許可をくれ」
商人ギルドマスター、パンを囓り、その後私を見てうなずいた。
「わかりました、許可しましょう。反対する者は私が抑えます」
やったー!
これでミルクが手に入るぞー!
接待と賄賂で融通してもらう、ってどこぞの営業マンみたいな対応で融通して貰いました。
お次はミルク料理……料理?をお披露目します。




