53話　肝試しには盛り上げ隊員が必須だよ

　ダンジョン内は非常に盛り上がった。

　セイラのおかげだ。

「キャーーーーーッ‼」

　スケルトンが現れ、悲鳴を上げ。

「キャーーーーーッ‼」

　グールが現れ、悲鳴を上げる。

　がっちりと無い胸を押しつけ腕にすがってきている。

　遠距離から魔法も使えるが、楽しむためにあえて近距離で木刀を振るっている。

　セイラが脅え、必死で私を盾にして隠れようとするのが楽しい。

「……後ろから見てると『ダンジョンに来て何やってんのコイツら？』って絵面だけどな」

　端から見るとイチャイチャしてるふうに見えるんだろうね。

「堪能している」

　満足げにうなずいたら

「お前、罰が当たればいい」

　ってソードに言われた。

　しかし、動きの遅い魔物ばっかりだな。

　ここら辺で素早い動きの魔物が出てくれば、より一層盛り上がるんだが。

　……と考えてたら、何かがスーッとやってきた。

「レイスだ。物理攻撃効かねーぞ」

　ソードが解説した。

「初手は私がいろいろ試したい。相手の攻撃を受けたらどうなる？」

「即死はねーよ。取りつかれっとやっかいだが……。精神攻撃をしてくるぜ。最悪、俺がなんとかできる」

　それなら安心。

「その前に、すがってるその女がなんとかできるはずなんだけどよ」

　って、指差した先にはガッチリとすがって震えているセイラがいる。

「いいんだ、彼女は盛り上げ隊員だ」

　これだけ怖がってくれれば、こちらも非常に盛り上がる。

「お前って結構ヒドイやつだって思うんだけど、でもその女もその女で、あれだけ強気で上から目線で言ってきた割にその様だからな、どっちもどっちだよな」

　投げやりに言ってるし。

「まぁまぁ、ソード、そうやきもちを妬くな」

「意味わかって使ってる？」

　って聞き返されたし。

　さて、レイスか。

　お化け屋敷では定番だが、正直、面白味はない。

　なぜなら音が出ないから。

「リョーク、アレってお前の探知に引っかかるか？」

「赤外線に反応があります。温度が低いです」

　ふーん。

　そこはちゃんと決まりに沿った感じ。

　では。

「キャーーーッ！　レイスが！　レイスが向かってきた！　キャーーーッ！」

　うんうん、向かってきているね。

「せー…………」

「キャァアアアアア！」

　ギリギリまで待ち、ソードが手を出しそうなギリギリまで盛り上がったところで。

「のっ！」

　レイス斬ってみた。

　斬れた。

　セイラはヒーヒー言いながら泣いている。

「うん、斬れたな」

　うん？

　ソードが大股で近寄ってきて…………アイアンクロー‼

「ぎゃー！」

「お前、危なっかしいにも程があるだろーが！　今のは本気でヤバかったぞ！」

「ヤバくない！」

　むしろアイアンクローの方がヤバい！

「お前は……！」

「だから、お前はもうちょっと私を信じて、状況を楽しめ！　これは、冒険だ！」

　手を離してくれた。

　ヒリヒリするー。

「心配性なやつだなぁ。こんなん危ないうちに入らないぞ。お前がかき消えたときの方がよっぽど危なかった」

　血みどろさんの使う魔法は正直意味がわからないので私にはすごく危ない魔法だ。

　転移魔法らしいけど、それ、失敗したら人間がばらけるぞ。

　あるいは蠅人間になるぞ。

「……わかった。悪かったな、お楽しみのところをよ」

「お前も楽しめと言っている」

　ほら、とセイラを指差した。

「ひー、レイスぅー……！」

　完全に腰砕け。

「コイツ、ダメ神官の見本じゃねーかよ。アンデッドのダンジョンでの神官なんて、見せ場もイイトコなのによ」

　ソードが呆れてぼやいた。

　さぁ、俺たちの冒険はこれからだ！　と思った矢先にボス部屋。

「ええー…………」

「ガッカリした声を出すな」

　ソードにグリグリされた。

「わ、私を、しっかり、守りなさいよ？」

　ガクガク震えながらセイラが言い出した。

「守るわけないだろう。私が守るのはソードと、あとゴーレムのリョークだ。むしろお前は盾になれ」

　ゲシッと蹴ってやった。

「こ、ここここまで連れてきて、それはないでしょ⁈　責任取りなさいよ！」

「知るか。私は他人の生死に口も手も出さない主義だ。神を信じているなら神にでもすがって助けてもらえ」

　ソードももう気にしなくなったらしい。

「じゃ、行くか」

　セイラの醜態も私の罵詈雑言も聞き流し、軽く言って扉を開けた。

　ギギギィ……ー。

　良い感じの音だな。

　開けたら何かが飛び出してきたりすると非常に盛り上がるが。

　って、一歩入ってきた途端にゾンビ犬が飛び出してきて、

「ヒッ！」

　セイラが腰を抜かして、ついでにお漏らしした。

「あー、ここまでだとやりすぎたか」

　斬り捨てた後、頭をかいた。

「むしろ冷静に対処するお前が怖いわ。俺だって初見の時はビビったぞ」

　だって、お決まりだもの。

「私はこういうのは得意なのだ。だが、こういうのはな、盛り上げ役がいないと途端に白けるのだよ？　相手だって、私が冷静につまらなそうに淡々と切り伏せていったら、白けるだろう？　驚かす気満載のダンジョンで驚かないとか、ダンジョンコア様だってガッカリするだろうが」

「うん、わかったから、ボスをやっつけようか」

　ボスはリッチだった。

　ということで、会話します。

「こんにちは」

「…………」

「会話が出来ないタイプですか？」

「……我は、リッチである」

「私は、インドラと申します。リッチさんは、ダンジョンコア様とお話しされたことがありますか？」

「……その情報は秘匿とす」

　そうか、残念。

　だが、秘匿ということはYesだよな。

「リッチさんは、自我がありますか？」

「…………それも秘匿とす」

「もしもここで私が倒した場合、また復活されたときは同じリッチさんですか？」

「…………是だ」

　よし。

「では、申し訳ありませんが、倒させていただきます」

「待て。我も、お主に興味がある」

　ほう。

　ソードが驚いた顔で私とリッチ氏を見比べている。

「お主は、なぜ私と会話をしようとした？」

「興味があるからです」

「その興味とはなんだ？」

「私は、ダンジョンとは、ダンジョンコア様が作ったアトラクション施設と考えています。ただ、出てくる魔物は私の作ったリョークのようなゴーレムではなく、本物の魔物のようだ。でも、ダンジョンの魔物を倒すと粒子となって消えていく。純粋な魔物とも思えない。その、ダンジョンコア様が作ったであろう魔物には自我があるのか？ということが知りたかったのです。私の作ったリョークにも自我と呼んでも良い、疑似魂のようなものが宿ってほしいと願っているのです。ダンジョンコア様が作った魔物がゴーストに近いものならば、私のリョークにもいつか、自我が宿るのかなーと……」

　フェードアウトして絶句。

　リッチ、笑い出したんですけど。

「……そなたは非常に面白いな。ずっと問答をしていたいが、私はここに縛られ、招き入れた客を倒さねばならないよう、縛られている。これにて会話は終了だ」

「そうですか、では、いきます」

　抜き放って、一瞬の間合いで斬り捨てた。

　粒子となって消える。

　その後、ポン、と宝箱が出た。

「お、宝箱が出たぞ」

「……お前、あれだけ楽しく会話してて、その後瞬殺して、さらに何の感慨も無く宝箱に興味を持つとか、ありえねーわ」

　ソードが呆けたような声で言った。

「会いたければまた会いに来ればいい。開けるぞ」

　……ん？

　開けたら、アクセサリーが入ってた。

「鑑定してもらわねーとなんだか解らねーな。下手すると呪いのアイテムかもしれねーからな。売っ払うのが手っ取り早いぜ」

「なら、そうするか」

　皮革に包んでバッグにほうり込んだ。

　さてと。

　あとは帰還するだけだが、おしっこ漏らした子はどうするか。

「……しょうがないな。私の予備の着替えをやろう。トイレ用の囲い布を出してやるから、その中に入ってこの手ぬぐいで身体を拭いて着替えろ」

　ヒックヒック泣きながら、着替えに向かった。

　しばらくかかって着替えて出てきた。

　着ていた服やら何やらは一切合切洗濯。

「ひぇっ⁉　ちょ、ちょっと、一体、何？」

「洗濯してる。簡単にでいいだろ、乾かしながら出口に向かうぞ」

　軽く洗って脱水、乾燥。

　セイラ、ボーゼンとしてる。

「……ねぇ？　コレって、結構、高等魔術なんじゃないの？」

「さぁ、わからん。ソードには出来ないらしいが、私はソードの使う魔法の方が出来ないからな」

　ソードが肩をすくめた。

「……あと、コレ、私が着てるの、下着、女物よね？」

「当たり前だろ」

「……なんで女物の下着を持ってるのよ⁉」

「私の予備だと言っただろうが！」

「アンタ、女物の下着なんて身につけてるの⁉」

「当たり前だろう⁉」

　ソードがゲラゲラとウケてるんですけど。

「変態！」

「むしろ男物身につけてる方が変態だろうが！」

「女物身につけてる方が変態よ！」

　なんでだよ！

　何？　神官の下着は男女関係なく全て男物、とか決まってるの？

　帰りは面倒くさくなったので、ソードとバンバン魔術を使った。

　帰るまでが遠足です、とは思わないタイプ。

　光魔術、紫外線で退治できた。

　殺菌効果ですな。

　まぁね、紫外線って結構有害だよね。

「お前の魔術、なんなの？」

「光魔術」

「うそつけぇ！」

　光ってないからソードにツッコまれた。

「……ちょっと！　光魔術使えるくせに、なんで至近距離で倒してたのよ⁉」

　セイラにも怒鳴られた。

「そんなん、お前が怖がるのを見て楽しむために決まっているだろう？」

　って返したらぶるぶる震えて怒っていた。

「バカーッ！　アンタ、ホント人でなし！　天罰が下るわよ！」

　私はほほ笑んで首を振った。

「ソードにも言われたが、神は人間ではない。だから、人のそんな些末な騒ぎにいちいち目くじらを立てないんだ」

　それを聞いてキーキー怒ってる。

　ここに来てようやくソードがセイラの反応に笑い出した。

「つーか、お前が倒せっつーの。でも、ま、面白かったから、いいか」