45話 捕まった後が怖い<ソード視点>
ソード視点です。
〈ソード〉
「…………う」
霞んだ頭を無理やり覚醒させた。
チッ、口の中をかんだから血の味がする。
「相変わらず魔術の効きにくいやつよね。本来なら丸一日くらい寝てるはずなのに」
視点が定まらないので頭を振って覚醒させた。
「…………無理やり連れてくんじゃねーよ、【血みどろ魔女】」
俺を上から覗き込んでる、黒髪でグレーの瞳の見た目だけは知的美人ってやつに向かって言った。
「その名前で呼ぶなっ!」
俺がこの土地に来た情報が早速伝わったらしい。
……出処はあの受付のねーちゃんか。
向かわせようとしてたから、潜入させた手下、ってことかよ。
ベッドに寝かせられてたが、身体を起こしてソファに座った。
「あ、あら? まだ寝てたらどう? いくらなんでもまだ魔術が抜けきってないでしょう?」
「うるせー。のん気に寝てられる状態かよ」
ホンットーにそうだ。
とっととここを出ねーと何が起きるかわからねー。
「……で? 用件は?」
血みどろ魔女はぐっと詰まった後怒鳴ってきた。
「……何なのあのゴーレムは! しかもパーソナルカラーのなんていつの間に見つけたの! どこで見つけたか吐きなさい!」
…………やれやれ。
「……そのことだろうと思ったわ。悪いな、アレは見つけたんじゃねえ、もらい物だ」
血みどろ魔女が絶句した。
「趣味でゴーレムを作るやつがいてな、ソイツからもらった。趣味だから、気に入ったやつにしか渡さねぇ……つーか普通は渡さねーな。趣味で作って侍らせて余生を暮らすとか言ってるネジ飛んでるやつだからよ」
思い出し笑いした。
「つーことで、話は終わりだ。ソイツ曰く、仮にも魔術師魔導師を名乗るなら、他人から盗むな自分の手で造り出せ、だってよ」
目が吊り上がった。
プライドが刺激されて怒ったらしいな。
「何ですって? 誰に向かってモノを言ってるか、わかってるの?」
「誰だろうと言うだろうな。そんなやつだよ。ちなみに、剣の腕も俺並みにあるから、バトっても勝てねーぞ。しかもだ、常識は欠片もねぇ。パートナーの俺がこんなところにとっ捕まってる、って知れたらどんなことが起きるかわからねーから、とっとと戻るわ。つーか、逆上して禁呪の大魔術を使われたら本気でヤバい。帰ります」
あの冷静さで逆上するとか考えられないが、冷静に俺がいなくなったって判断してアイツが〝禁呪〟っつーくらいの魔法を使われても怖い。
「帰すわけないでしょう! せっかく会えたのに……」
最後の方の言葉は聞き流した。
窓からリョークが顔を出したからだ。
「あ。……ダメだ、もう手遅れだ」
「へ?」
瞬間。
リョークの右手から魔術が連射された。
窓枠や周りの壁ごと吹っ飛ぶ。
壊された窓から俺専用リョークが入ってきた。
「ソードさーん、助けに来たよー」
「あぁ……ありがたいけどな、自力で戻れた。あと、聞くのも怖いんだけどよ、インドラどうした?」
「ドアから侵入して敵を引きつけてますよー。もう少ししたら合流すると思いまーす」
血みどろ魔女は、壁の破片を食らって埃まみれになってた。
ついでに呆けて立ち尽くしてる。
「…………ねえ、ちょっと? 今、しゃべってなかった? あと、魔法連射? なんで窓から入れたの? これ、ゴーレムなの? モンスターじゃないの?」
「ゴーレムだよ。脱皮もするけど、ゴーレムだ」
……あぁ、ドア越しから、下ですげー砕けたり悲鳴が上がってたりすんのが聞こえてくるんですけど……。
なんかドア開けるの怖くて出来ないんだけど、どうしよう?
「…………ちょっと、廊下が騒がしい…………」
「離れろ!」
ドアに近付いた血みどろ魔女を咄嗟にかばって、床に転がる。
瞬間。
ドアのある壁一帯が爆散して崩れた!
もうもうと上がる埃が風に流され、現れたのは……やっぱりというか、無表情のインドラだ。
あ、やべ。そーとーキてるぞ。
頭をかくと、立ち上がった。
……ちょっとふらついたら、飛んできて支えてくれた。
「おい! 無事か⁈」
「つーか、お前に殺されそうだったけど? 俺、ドアの近くにいたんだよ、知ってる?」
「大丈夫だ。お前は頑丈だから、壁が吹っ飛ぶくらいの魔術ではどうにかならない」
「いや、なるからね? やめてね?」
俺をなんだと思ってんだよ。
お前基準で考えるなよ。
お前なら大岩が当たったら大岩の方が砕けるだろうけど、俺、そこまで丈夫じゃないからね?
目が合った。
その目の色に、不安とおびえがあった。
「…………確かに、事を大きくすると、今までに無いほどの緊迫感が味わえる。けど、お前を危ない目に遭わせてまで、味わいたくない」
瞳に涙が膨れ上がった。細かく震え出す。
抱き寄せたら抱きついてきた。
「……ようやくわかったか、バカ」
「怖かった。お前が急にいなくなって、生きてるのかって不安で、怖かった」
泣きじゃくるインドラをなでながら、思い出した。
――俺には夢があった。
仲間と冒険する夢だ。
ダンジョンを攻略したり、魔物をやっつけたり、仲間と笑い助け合いながら旅をして、いつか俺たちが一番強く、そして俺たちのパーティの名前を世間に轟かせよう、そんなバカな夢と希望をみんなで語っていた。
でも、現実は、俺だけが強くなっていった。
最初に組んだ幼馴染みの仲間たちは俺を疎い憎み、関係は拗れ、俺は自ら脱退した。
そしてその後どのパーティと組んでも、俺は仲間として受け入れられなかった。
騙されることも利用されることもしょっちゅうだった。
それに疲れて夢を捨て独りで戦い依頼をこなし、そしていつの間にかソロでSランクになって、俺の名だけが有名になっていた。
金もいつの間にか貯まっていた。
ならインドラの言う通り、引退してどっかに引き籠もっても構わなかったのに、それでも冒険者を辞めずに放浪していた。
いつか無くした夢が、【仲間と共に冒険する】ってつまんねー夢が諦めきれなかったから。
――それを今、思い出した。
「まだいなくなるワケにはいかねーな。大盗賊が埋蔵したかもしれねー宝物も見つけてねーし、魔王に頼んで城を攻略させてもらってもいねー。冒険者は冒険してナンボなんだろ? なら、お前と冒険しなけりゃな、まだ始まってもいねーからよ。――俺と、冒険しようぜ?」
「うん」
ガシガシ頭をなでてやった。
で、ひと段落ついたところで見回した。
うん、アッチが悪かったとはいえ、やりすぎだ。
血みどろ魔女の屋敷、半壊。
死人が出てないことを心の中で祈ってる。出てない方が奇跡なんだけどよ……。
血みどろ魔女、俺たちをボケーッと見た後、自分の屋敷の有り様にようやく思い至ったらしく、悲鳴を上げて外に出た。
「ちょっと⁉ みんな、無事⁉ 無事なの返事して‼」
その声を遠く聞きながらインドラに質問した。
「…………聞くのが怖いが、聞かないとだよな…………。ここにくるまで、何人殺した?」
「まだ殺してない。向こうに殺す気が無かったから、こちらも手加減した」
大きく息を吐いた。
「……ちょっと手荒で問答無用だったけど、一応屋敷に招待されたんだ。血みどろ魔女は、そーいったやつでな……。こっちの事情お構いなしでさらってくる。なんで、やつに知られる前にここを離れたかったんだけどよ……」
もう一度息を吐いた。
ま、死人がいないのは幸いだった。
その場合、確実に血みどろ魔女を敵に回す。
それこそ戦争だよな。
勝つ気はあるが、かつて一緒に戦ったやつと殺し合いたくはない。
Sランク冒険者二人目が登場です。冒険者っつってんのに冒険してねーじゃねーかよってくらい冒険してない冒険者です。Sランクなのに。
次回は主人公視点に戻ります。




