25話 冒険に行こうよ(冒険してない)
それから約二年。
私は更なる屋敷の改良に精を出し、ソードは屋敷の改良にかかる材料費用の捻出をし、酒を仕込み、料理を教え、料理人だけでなくメイドも料理を教わるようになり、使用人は(主に酒に使う作物の)農作業を行うようになり、皆で話し合いもっと住みやすい家を目指し、それが一通り落ち着いた。
「私、いい加減、本業に立ち戻ろうと思う」
ソードに言い放ったらキョトンとされた。
「本業?」
「冒険者」
「は?」
ものっすごい、「何言ってんだコイツ?」アピされた。
「お前、もう、冒険者である必要なくね? うちの料理人チームと組んでどっか借りてレストラン開けば貴族だって呼び寄せられるような集客率誇れるだろうぜ? 料理人チーム、それで無給の分を補おうとしてるしよ。他にも、お前、この家の魔導具を貴族の屋敷で売り出したら、簡単にボロもうけできるじゃんかよ。王族だってこんな屋敷に住んでねーっつーの」
だんだんヒートアップしてきた。
「なんでこの取っ手ひねったら水が出るんだよ⁈ なんでトイレで水流れて出したモンがどっかに消えんだよ⁉ 火の調節出来る魔導具ってなんなんだよ⁈ こーーーーんな快適生活送ってたら、人間駄目になるわ‼」
つば飛ばして怒鳴ってきた。
「だが今は金を使ってるだけじゃないか。持ってきた酒分を売りに出すことに決めたが、それだって吟味中とかで、結局無収入だ。手っ取り早く金を稼ぎたい」
確かにせしめた金はまだあるが、そういう問題じゃない。
お金稼ぎたい。料理屋やるにしても元手が必要。
それに、当初の目的【異世界観光】してない。
「……ソードは、素材集めだの資金集めだの、冒険者らしきことをやっているんだろう? 今までやることが多くて出来なかったが、ようやく時間がとれる。私もソードと一緒に冒険してみたい」
って、うつむきながら悲しそうに言ったら、簡単にデレた。
「そうだな。俺が教えるっつったんだもんな。わかった! 俺と一緒に冒険に行こう!」
オッサン、チョロい。
「つーわけで、しばらくこの家を離れることになった。管理よろしくな。苦楽を共にしたお前等ならこの家でやらかすこともないだろうが、気をつけろよ。依頼出して冒険者を一組警備に当たらせるし、インドラがなんか怖ぇー防犯魔導具仕込んでるから大丈夫だとは思うけどな」
「ギルドマスターから連絡があった場合、なくても危機が迫ったと感じたときはすぐさまコレを押せ。そして酒蔵に逃げ込め。私が思いつく犯罪パターンに対応した迎撃パターンが作動するから、巻き込まれないようにな。酒蔵は【シェルター】になっている。この星が滅ぼされない限りは安全だな」
メイド嬢たちが一斉にソードに詰め寄った。
「くれぐれも、くれぐれも! インドラ様をお願いいたしますよ!」
「変な場所に連れ込まないように!」
「お嬢様を泣かせたら末代までたたりますよ!」
なんか怖いこと言ってたような? 翻訳間違い?
「わ、わかった。大丈夫だ、任せろ」
私もうなずいた。
「ワンタッチで折りたたみ可能のテントを開発した。魔術でトイレ問題も解決だ。私のことよりお前たちも気をつけろ。金が足りなくなったらケチケチせずに酒をギルドマスターに売りつけろ。〝麦蜜〟もな」
「「はぁ~い」」
全員テンション低く返事した。
背に腹はかえられないだろ。水飴改め〝麦蜜〟なんて熟成期間いらない分煮詰める手間しかかかってないじゃんか。
「じゃあ、行ってくる」
「「いってらっしゃいませ」」
全員に見送られて家を出た。
さて。
「リョーク、町を出たら一旦光学迷彩化しろ」
「あいさー!」
私とて、二年間家のメンテばっかりやっていたわけではない。
魔術という万能具を得たからには、どうしても、自らの手でロボットを作ってみたかった。
どうしても‼
宇宙戦争で活躍したロボットも憧れだったけど、究極は魂の宿ったロボットだよね。
ソードにギャーギャー非難されつつも作りあげた。
「なんっでこんなジャイアントスパイダーみたいな形にしたんだよ⁉」
「蜘蛛は益虫」
「益になるか! 糸に巻かれて毒注入されて頭から食われるだけだわ‼」
あ、この世界の蜘蛛ってそんななんだ?
「うーん、別世界情報によると蜘蛛とスライムは人間の友達みたいな」
「ねーわ! 糸でぐるぐる巻きで食われるかドロドロに溶かされて食われるかって違いだけだわ!」
ふーん。残念。
「まぁいいんだ。これはゴーレム。学習機能付戦うゴーレムくん。名前は【竜駒】」
「ネーミングも意味不明」
「別世界の言葉で〝名馬〟って意味だ」
「馬じゃなくて蜘蛛じゃねーかよ」
いろいろ言われているが、気に入ってるんだ!
基本は押さえたし!
……の要素てんこもりリョーク、二体しか作れなかった。
もちろん、専用線ネットワークシステムで並列化するよ! 二体しかいないけど!
「私がこの旅を終えてもっとすごい魔術を知ったら、組み込んでやるからな」
「これ以上やめろ。制御出来なくなったらドラゴンよか強敵になるじゃねーかよ」
「暴走はしたくても出来ない。思考や会話は魔素で充分足りるが暴走するほど動かすには魔素と燃料の両方が必要だ。傍にいてメンテナンスする人間がいなければ劣化だってする」
ソードがため息をついた。
「……さいでっか」
「そういうものだぞ?」
冒険に出てちょっとしたら、ソードがなんかやる気なさそうに言い出した。
「一応な、初心者冒険者のお前に一般冒険者の旅のイロハを教えとく」
「汚い狭い、コワイ」
「わかってるからそこはパスするから安心しろ。基本は、街道を、馬車もしくは徒歩で移動する。で、止む無しってとき以外は、夜営ポイントで夜営する。そこはまず見晴らしがいいから魔物が出てきても見つけやすいし、同じく移動中の連中が集まるから夜営している連中同士で連携を取りやすい。俺くらいになると強敵なんざいねー……お前もだろうけど、いないが、人数が集まりゃそれだけ敵が出たとき勝つ算段が立ちやすい。そういう理由で、出来るだけ夜営ポイントで夜営する。わかったか?」
深くうなずいた。
「わかった、つまり、夜営ポイントには人がいるから危ないのでそこを避けろと」
「言ってない」
え。
いきなり頭グリグリされた。
「お、ま、え、が! そんな事を言うならな、もう教えねーし、なんなら泊まりもあのリョークとか名前つけたジャイアントスパイダーゴーレムの腹の中でもいいんだぜ? そこは安全なんだろ? お前が冒険者みたいな夜営したいっつーから、テント持ってきたんだろうが! 破壊するぞ!」
「ごめんなさい」
よくわからないけど謝ったら、ソードが手を離し、もう一度ため息をついて前髪をかきあげた。
「……俺もSランクだからな、一般冒険者と混じっての夜営は避けたい。だけどな、冒険者ってのはいろいろな事態に遭遇する。俺とお前だけじゃなく、大勢で対処しなきゃならねー依頼もくるし、その場合『断れない』」
え。
……でも、まぁ、それはそうか。
『断れない』ほどの依頼なら緊急でかつ重要な案件だろうし、断るなら冒険者やめろってことだろうし。
「……ちなみに、それって、護衛とか、そういった」
「Sランクに護衛させるってんなら、少なくとも『人』じゃねーな。大災害クラスの魔物が襲ってきそうな『モノ』じゃなきゃ、護衛しろなんて言われねーよ。お前が考えてそうな『お貴族サマや王族サマの護衛』は、例えSランクだとしても冒険者にやらせることはねぇし、来たとしても『断る依頼』だよ」
胸をなで下ろした。
「……別に、協力しろというならするし、そこまで協調性がないわけじゃない。ただ、この世界の人間は自分が一番大切で、そのために人を利用しようとすることがある」
「否定はしねーよ。だからお前も自分だけ大切にして利用しろよ。確かにずっとついててやるっつったしそのつもりだ。だけど、不慮の事態ってのは俺の予測をいつも上回ってきやがるからよ。俺が助けに行くまでお前は自分を大切にしとけよ」
そう言われて安心した。
そして、『安心した』ことが分かったとき、あぁ、私はどこかで誰かに寄りかかりたいと思ってたんだな、ってことも分かった。
血のつながった人間があんな連中で、頼りになる人が誰もいない中、ソードが現れて、いつの間にか頼りにしていた。
だからこそ、あの日あの時激怒したのか。
絶望したのか。
「ど、どうした急に」
ソードに寄りかかったら驚かれた。
「……私は、知らず知らずのうちにお前に頼り信じ切っていたらしい。本当は誰かに頼りたいとも、思っていたらしい。それが今、わかった」
「…………」
頭をなでられた。
「わかってる。俺だって、お前のことをいろいろ考えてんだよ。ちょっと間違うこともあるけどよ……。でも、お前のためになるって思って行動してんだぜ? ま、次はためになったとしても崖から突き落とす勢いで突き放すことは止めるわ。お前の病みっぷりじゃ次にソレやったら禁呪の大魔術で世界を滅ぼしかねねーもんな」
「わかってくれてうれしい」
「いや、うれしがるんじゃなくて止めてくれ」
笑った。
いきなり二年後。悩みましたがゴーレムを作らせたかったので書かないところで修行と研究を重ねさせました。そこを書いてると延々出発出来なかったので……。




