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異世界リリーフ ~球の勇者の世界扉~  作者: 渡久地 耕助
私の勇者の武器は球です。
7/9

世界扉

感想・評価ありがとうございます。


励みになります。

 見慣れた1LDKのアパートの一室に俺は立っていた。


 ああ、さっきまでのアレは夢だったと思わせるほど、現実感が溢れる空間。


 そう、俺は帰ってきたんだ……


『な、何ですかこの部屋!! 球、球、球、球!だらけじゃないですか!!

 しかも球種がすべて違うとか!! どれだけ業が深いんですか今代の勇者は!?

 あ、貴女達!正妻の座は私のものですからね!!』


「うう、私があの術式を研究して召喚するのにどれだけの時間と労力を使ったと?

なのに、…いとも容易く、私の努力と役割って一体?」



 ……現実世界にファンタジーの住人たちが侵食している点を除けば。


 俺の部屋にある大量の仕事道具(ボール)に宣戦布告し、ガルルと唸る聖球(タマオ)

 俺のスキルにアイデンティが崩壊しかけている召喚の巫女(ヒオ)


 くそ、夢だけど夢じゃなかった程度の名残りなら未だ、良かった!!


 夢じゃないという証拠そのもの、非現実的な存在の象徴まで付いてきやがった!!

 目が覚めたら、トト○が添い寝して庭に巨大(クスノキ)が生えたままみたいなもんだ。


 現実逃避したくても、現実が俺を追い掛け、目の前に突きつけきやがる!!


 



 ……いや、俺が連れてきたんだけどさ?

 

 さて、彼女たち(タマオを女性としてカウントしないと五月蝿い)がここにいる理由を説明せねばなるまい。

 

 先に俺の名誉の為に断っておくが、美少女を拉致監禁する為に連れてきたことでは無いということだけは言っておく。


 話は謁見が済んでしばらくしてからまで遡る。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 


 謁見の間で、俺は空気を変えるような発言をしたりしたが、この聖球様は、シリアスな空気をぶち壊すという荒業を披露した。

 持ち直したのは、こうなる事を見越していた王妃様で、新たな勇者に対する祝福を述べ、明日までに仲間を斡旋するので、今日は休むようにと、半ば追い出されるような形で謁見の間を後にした。


 後、俺の手に張り付いたタマオだが、契約が済むと、衛星の様に俺の周りを回ったりして浮いていた。


 彼女いわく


『運命の赤い糸に結ばれた恋人の様に、パスが繋がっているので、他の男に取られたりしませんのでご安心を♪』との事だ。


 妙に俺の世界事情に詳しい奴だ。

 運命の赤い糸って確か、ギリシャ神話に出てくる迷宮の攻略法が由来じゃなかったか?

 迷宮の設計者であるダイダロスとその息子イカロスで……ミノタウロスを閉じ込める為の脱出不可能な迷路、そこから帰ってくるために、ミノタウロスを倒してこいなんて無茶ぶりされた英雄が、お姫様から貰った赤い毛糸を入口に貼り付けて、其れをたどって帰ってきた……だったかそんな由来だった筈だ。


 

 過去に召喚された勇者から聞いたか、俺にそういう風に翻訳されているのか?。(召喚魔法の術式に翻訳機能があるらしい。)


 まぁコイツの情報源とか正体云々よりもずっとコイツにくっつかれたままとう自体は避けられた事の方が俺には重要だ。

 

 ・

 ・

 ・


 そしてベッドに玉を放り投げ(その際、キャン♥とか心の準備だとかウザイ妄言を吐いたが無視した。)


 通された豪奢な貴賓室で寛ぐ事はせず、自分の武器と能力の把握につとめた。

 

 「ステータス、アイテム、ヘルプ、メニュー!」

 

 ここがゲームの世界という可能性も考慮に入れてそれらしい単語を羅列するが何も起きない。

 

 『……あの~ご主人様? 一体何を? 大丈夫ですか?』

 

 死にたくなった!! 無駄にテンションの高いタマオが妙に優しい声で心配してきた!!

 

 「……自身の能力を知る為に使う単語が俺の世界にあるんだよ。」

 『ええ、召喚型勇者はそういう単語をよく口にしますね。』

 「知っているなら、そう言え!!」


 クスクスと忍び笑いしやがって!! 性格悪いぞ!!


 『フッフッフ、夫の凡ゆる要望に応えずして、何が良妻か!

 お見せしましょう!我が能力を!!』


 なんか不敵な笑い声を上げながら、水晶玉の姿のタマオが光りだすと同時に俺の視界にステータス画面が映された。


 ゲームなのか現実なのかハッキリしろ!!


『乙女の秘密 その一『水晶玉モード』!!

 占い師、魔術士の水晶玉に変化し、ご主人様の能力を占い、診断しました。』

「へ~凄い凄い、流石、タマオちゃん。」

『きゃん♪ ご主人様に褒められちゃいました♥』


 能力じゃ無かったのかよ、とか、乙女の秘密じゃなくて、俺の秘密を暴いてんじゃねえかとかのツッコミは省く。

 相手しても疲れるだけというのはこの短時間でよくわかったからな。


 無視してもいいが、いい仕事をしたので、一応褒めておく。

 不本意だが、ある程度、良好な関係を築いて情報を引き出さないといけないしな。


 そうして視界に映るステータス画面のアイコンを指でなぞる。


 ステータス


********************


 児玉 浩一


 レベル1


 装備武器  水晶玉(伝説武器)

 

 装備    異界の服


 魔法    次元魔法適性


 特殊スキル 世界扉 


*********************


 身体能力に関するステータスを見るが比較対象が少ないから分からないが、魔力が突出し、筋力と敏捷性が他より若干高い意外は平均的だ。


 球の勇者ってのは水晶玉から察するに魔法使い系の勇者なのか? 

 いや、結論を出すには未だ情報不足か。

 

 そして、気になるのは次元魔法適性と特殊スキル『世界扉』だ。

 俺の想像通りの能力名に心が踊り、小さくガッツポーズを取る。

 待て、落ち着け俺、慌てるな。先ずは使用方法を調べないと。


 だが、ヘルプ画面を開いても『世界扉』の単語が無い。

 使わないと表示されないのか?


 

 【世界扉】、俺の想像通りなら扉を媒介にして異世界を渡れる力の筈だ。

 

 ふむ、状況を再現するなら


 ①扉を用意 


 ②次元の歪み?(念話が通じる位の穴)

 

 ③行きたい場所を思い描く

 

 

 問題は②だ。


 あの時、ヒオの召喚によって異世界との繋がりがあった。

 

 俺が初め、扉を閉じた時ヒオが扉を開けて追いかけてこなかった事、俺が渡った時に扉が消失した事実から世界扉は閉じればどこでもドアみたいに消えると予測できる。


 まぁ帰る帰らないは兎も角、扉が作れないか試してみよう。


 

 『? ご主人様?』


 貴賓室の入口まで歩き、ドアノブに手を掛ける。


 別に世界扉と声に出す必要は無く、伝説の武器も必要せずに使える筈だ。

 特殊スキルは勇者としての能力では無いのは、選定勇者の事からも分かるとおり、召喚される異世界人が獲得する超能力だろう。

 元いた世界、俺のアパートの一室を思い浮かべる。


 同時に、俺の身体から透明な膜の様な湯気が吹き出るのを感じ、扉を包んでいく。

 

 繋がった……


 直感的に扉の向こう側の空気が変わったのを感じる。

 扉に顔をあて、耳を済ませると、聞きなれた都会の音、テレビ番組の音や其れを見て笑ってる隣の住人の声が微かに聞こえる!!


 意を決して開けると、そこは僅か、一年少しもの間、過ごした俺の部屋の玄関だった。


 

 パタンと扉を閉じる。

 帰巣本能とか望郷心だとかは異世界に来て、未だ数時間も立っていないからだろう。

 即座に帰るという愚行はせずに済んだ。


 

 本能のままに行動するのは三流だ。


 球技で、凡ゆるスポーツの中で、野生の直感、嗅覚でプレイする天才、感覚派と戦ってきたが、真の一流プレイヤーは理性と本能を完全にコントロールした奴だ。

 

 ここで、帰れる事は判明しただけでも上々だが、このまま帰ってもう、この異世界に来れないという可能性もある。


 その前にこの世界で試したいこと、手に入れて置くものがある。

 

 強欲な島に不正入島を目論む盗賊達が如く、黒い笑みが浮かぶ。


 細めな支配者がこない限りは大丈夫の筈だ。


『ご、ご主人様、今の能力は……』


 タマオが狼狽えている。

 今の光景は彼女にとっても規格外、想定外な現象だったのだろう。


 俺ですら驚きだ。


「俺の能力だ……バレると後々厄介になるが、次元の悪魔に対抗する手段にもなり得るが、検証が済むまでは俺とお前だけの秘密だ。」


 最後に口説き文句をつけて喋らないように釘を刺す。


 すると、ハイ とだけ答えてタマオは黙り込んだ。


 さて、俺の身体から湧き出たのは魔力か? 

 だけどタマオと契約した時、魔力を放出していたらしいが、魔力の流れは感じ取れなかった。


 タマモの言やステータスを見た限り、この情報を信じるなら俺のMPと魔力は抜き出ている……

 にも関らず、ステータスを見てもMPは減っていない……


 と考えているとバタバタと足音が聞こえ、扉を叩く音がした。


「……、こ、コーイチ様、いらっしゃいますか!?」

「ヒオ? ……どうぞ。」


 入ってきたヒオは俺の声を聞き、姿を見て安堵しつつ、部屋をキョロキョロと見渡す。

 もしかして、世界扉を使ったのを感じ取ったのか?

 てか随分早く来たな?近くで待機してたのか?


「あ、あのいきなり来て、不躾なのですが、コーイチ様…先ほど、例の能力を…?」


 やはり、そうか。召喚の巫女と言われるだけ合って次元や空間の違和感を感じ取れる力を持っているのだろうし、彼女はタマオを除いて俺の能力、特異性を知る唯一の人間、そして俺が世界を見捨てて帰るという事を危惧していた。

 

 この反応は当然だろう。

 

「安心しろ、ヒオが約束を破らない限りは、押し付けられた責任だが、勇者として中途半端に放棄して帰る気はないから。」

「そ、そうですか。」

「まぁ今から一旦帰るけど」

「ええッ!?」


 安堵した顔色が一気に変わる本当、からかい甲斐があるやつだ。


「ちょっとした実験だ。 上手くいけば世界滅亡の危機を回避できる裏技だ。

 一緒に俺の世界に来てくれ。 俺にはヒオが必要だ。」


 そうして、手を差し出す。


 次元の悪魔の正体、召喚勇者の能力を解明し、何より俺の目的を達成する為にも彼女の協力が必要だ。


「ひうッ そ、それってあの?」


ん、なんか反応がおかしいな?


『ウフフフフ、ご主人様? 舌の根も乾かない内に私たちだけの秘密を彼女に教えるなんてどういうおつもりですか? しかも目の前で浮気とか、そんな事をして私の興味を引くおつもりですか? 

よし、どいてご主人様、ソイツ殺せない。』


 禍々しい殺気を放つ、タマモ

 真っ赤になって俯くヒオ


 この二人の反応を見て、俺は失言とこのシチュエーションに気づいた!!


「ち、違う!!そう言う意味じゃ無い!! 」


 その言葉で俺は慌てて、ヒオとタマモの誤解を解き、元いた世界に一度帰還するのに

 多大な時間と労力を費やしたとだけ記しておこう。


 

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