バケモノ枠
ダンジョンの入り口が消えたのだから、さっさと攻略するしかない。
師匠たちに任せられれば楽だったんだが、どっかに飛ばされてしまったのだからしょうがないよな。
師匠たちが実力(物理)でここまで戻ってくるのを待つのも手だが、水と食料がなぁ。俺とラックだけなら何日でも活動できるが、貴族のご令嬢にそれを強いるのは……。
シャルロットが追放を見据えて幾ばくかの水と食料は空間収納に入れておいたらしいので、それらが尽きる前に攻略してしまおうという方針が多数決で決定された。
「じゃ、俺が先頭で、ラックが後方だな」
「おう、そうするか」
「ボクたちはどうすればいいかな?」
「魔力には限りがあるからな。まずは静観して魔力の節約に努めてくれ。特にエリザベス嬢は回復魔法が使えるから、特に意識してほしい」
「わかりましたわ」
エリザベス嬢が頷くのを見届けてから、メイスが手を上げた。
「探知魔法は使いますか? 私は攻撃魔法が不得手なので、そちら方面でお役に立った方がいいかと。さすがにミラさんほどの範囲での探知はできませんが」
「いや、索敵は俺が感じられるから大丈夫だろう。それよりは魔力を節約した方がいい。……だが、明かりは欲しいな。灯火をお願いできるか?」
「わかりました」
ということで。
剣士2、魔法使い4(うち回復専門1)という奇妙なパーティーでのダンジョン攻略となったのだった。
◇
ダンジョン攻略開始からしばらくして。
「ラック君、ラック君」
どこか呆れたような顔をしたシャルロットがラックに声を掛けた。
「はい、どうしましたシャルロット嬢?」
「なんだか、シルシュとライラがいたときと大して変わってなくないかい? 進む速さが」
「……そりゃあ、まぁ」
ちらり、と。先頭で戦いを続けるアークを見やる二人。
シルシュやライラほどの勢いはない。攻撃によってダンジョンが震えることもないし、壁がガリガリと削られることもない。
しかし、必要最小限の動きで魔物を狩っていくアークの剣は効率的で、美しさすら感じられた。
「自覚はなさげですが、アークの奴もバケモノ枠ですので。生まれたばかりのダンジョンでは勝負にならないでしょう」
「あぁー、バケモノね……」
ちょっと失礼な呼称じゃないかと思うシャルロットだが、そうとしか呼べない強さだった。
「……まぁ、自覚がないからこそ厄介なんですが」
「というと?」
「団長がいい例ですが、強大な力を持つと油断するんですよね。しかしアークはすぐ近くに団長というバケモノがいるんで、自分は弱いと思っている。そして、弱いという自覚をしている人間は油断しないんですよね。どんな相手だろうが全力で戦い、排除する。……正直、戦いたくないのはアークですわ。団長ならまだ罠に嵌めやすいんですが」
「はぁ、そうなのかい……」
そんなものかとシャルロットが納得していると、すぱーんっと。アークがブラッディベアの首を刎ねていた。
「……あのデカいクマ。最初、アーク君は苦戦していなかったっけ?」
「あぁ、言い方は悪いですが後ろにか弱いご令嬢がいたんで、戦いにくかったのでしょう。しかし今となってはそこそこ戦えると分かったんで、アークも気にせず先頭に集中できるのでは?」
「つまり、信頼してくれていると」
悪くないねと思うシャルロット。
せっかく上機嫌になったというのに、ラックが余計な一言を付け加える。
「あと、単純に慣れたのでは?」
「慣れ」
「あいつ、学習能力がバカ高いんで。同じ魔物相手ならどんどん楽に勝てるようになるんですよね」
「…………」
もうアーク君一人でいいんじゃないかな? そう思ってしまうシャルロットだった。
※風邪引いたの何日かお休みします




