信頼
「おっと」
天井から奇襲しようとしていた魔物を切り伏せる。
「やっぱアークがいると楽だよなぁ」
「ラックももう少し感覚を研ぎ澄まそうぜ?」
「アーク、いいことを教えてやろう。人間はいくら鍛えても人間以上の存在にはなれないんだぜ?」
「まったく言い訳だけは一人前だな」
まぁラックは頭を使うのがメインだからな。師匠たちもそっち優先であまり本気で鍛えてなかったから仕方がないか。……本気で鍛えてなくてもあの訓練量なのかよと思わないでもないが。
「おっ、」
背後から大きめの気配が。こりゃあブラッディベアかな? 狭い洞窟内で戦うのはちょっと面倒くさい相手だ。
「ん。任せて」
俺の心を読んで敵を認識したのか、ミラが呪文詠唱を始めた。
「――いと猛々しき焔の神よ。いと気高き紅蓮の主よ。世界の始まりの炎で以て、今こそ我が友を救いたまえ」
うわ。
なんかものすごい勢いで魔力が渦巻いているのが分かる。最近魔力を察知できるような俺だけでなく、ラックにも分かったのかエリザベス嬢と身を寄せ合っている。爆発しろ。
ミラノ周辺で渦巻いていた魔力が、ミラが伸ばした手の先に集中し、凝縮されたところで、
「ガァアアアアァアアアッ!」
ブラッディベアがその姿を現し、
「――焔よ、我が敵を討て!」
ミラが攻撃魔法を放った。
洞窟の直径くらいありそうな巨大火球はダンジョンの岩壁を焼き焦がしながら直進。ブラッディベアは叫び声すら上げることなく蒸発したのだった。
えー? 俺でもそこそこ苦戦したブラッディベアが、あんな一瞬で? やっぱり魔法使いってすげぇなぁ。
「いやアークも対して苦戦してなかったじゃねぇか」
ラックのツッコミは丸っと無視するとして。
「ん。お兄ちゃんが守ってくれるから、安心して呪文詠唱ができる」
優しい言葉を掛けてくれるミラだった。いい子だ。めっちゃいい子だ。思わず頭を撫でてしまう俺だった。
「……次はボクがブラッディベアを消し炭にしようかな?」
なぜかやる気を出すシャルロットと、
「くっ、私ではあれほどの攻撃魔法は……」
悔しがるメイスだった。いやいや、適材適所。適材適所だから。むしろうちは戦闘能力高い人ばかりだから貴重ですよー?
ブラッディベアのいたところには、なにやら細やかな装飾が施された首飾りが落ちていた。もちろん普通のブラッディベアを消し炭にしたら何も残らないか、魔石がかろうじて残るくらいなので、やはりダンジョンは通常と法則そのものが違うのだろう。
さっそく適材適所。さっそくメイスに鑑定してもらう。
「……所有者はシルシュ様になっていますね。やはりシルシュ様の魔力を活用して魔物の姿を取っているのではないでしょうか?」
「ふ~ん……」
もう一度シルシュの意見を聞くかーっと俺が快進撃を続ける二人に視線を向けると、
ぴっかー、っと。
師匠とシルシュの足元が光り輝いた。
あれは……魔法陣か?
「ん。設置型の転移魔法陣」
俺がシルシュのいた洞窟にまで飛ばされたアレか。
「な、なんだこれは!?」
油断しまくっていた師匠は魔法陣が光って初めてその存在に気づいたらしく。
『はっはっはっ! 我の魔力を使い、我を罠に嵌めようとは! 面白い! やってみるがいい!』
なんか高笑いするシルシュだった。
魔法陣の光がひときわ強まり、師匠たちの姿が見えなくなって――消えた。魔法陣も。師匠とシルシュも。
「…………。……ま、あの二人なら何とかするだろ」
「そうだね」
「ですね」
「ん」
頷き合う俺たちだった。




