ダンジョン攻略(危機感ゼロ)
世界一緊迫感のないダンジョン攻略中。
俺はダンジョンに潜った経験はほとんどないが、冒険者ギルドで教えられる一般的なダンジョンに似た形態だと思う。洞窟の高さは中型の魔物が活動できる程度で、明かりはなし。壁は剥き出しの岩肌なのだが、地面は不思議と平らに成形されている。
基本的に前と後ろを警戒すればいいので楽なのだが、魔物の中には岩肌に擬態して上や横から襲ってくるものもいるので注意しろ、とのことだった。
ま、俺は『感じる』ことができるのでまるで問題はないのだがな。
一応、布陣としては正面に師匠とシルシュ。真ん中にご令嬢たちと、ラック。そして俺が背後を守る形だ。シルシュはどうか分からんが、師匠は油断しまくるからな。こういうときは俺が一番後ろにいた方がいいのだ。
「回収~回収~回収~っと♪」
なんとも珍妙な歌を歌いながら空間収納に宝物を放り込んでいくシャルロットだった。うん、あくまで回収。泥棒するような子じゃないから大丈夫だ。……たぶん、きっと、おそらくは。
ちなみに隣を歩くメイスがちゃんと目録を書いてくれている。真面目だ。頼りになるぜ。
「ん。独特な魔力。これがダンジョン……」
いつもの無表情ながら、なんか目をキラキラさせているミラだった。まぁ普通の貴族令嬢ならダンジョンに入るのなんて初めてだろうからな。……ダンジョンに潜っちゃうような『貴族令嬢』に心当たりがないでもないが。
『いざとなったら俺の大☆変☆身で助けてやるぜ!』
気合いを入れるようにシャドーボクシングをしているのはクーマ(くまのぬいぐるみver.)だ。ご主人様たちのせいであんな目に遭わされたというのに忠誠心に揺らぎはないらしい。漢だぜ。
あと、美女に変身するならともかく、あのバカでかい巨人になるのは無しだからな。ダンジョンが崩壊して生き埋めになったら全滅だ。……いやシルシュと師匠は無傷だろうが。俺を含めた一般人がなぁ。
「……一般人?」
こてんと首をかしげるミラだった。騎士としての訓練を受けている人間は一般人じゃないと言いたいらしい。
「そうじゃない」
そうじゃないらしい。
「シルシュやライラと同じ枠」
バケモノ枠に入れるの、マジで勘弁してくれません?
そしてバケモノ枠二人はというと、
「はーははっ!」
『わははははっ!』
二人並んで、競うように魔物たちを討伐していくのだった。そう、ドラゴンと元勇者が。なんかもう魔物たちが可哀想になってくるな。
魔物を倒す際の衝撃波やらなんやらでダンジョンの岩壁がガリガリ削れているのが超こわい。ダンジョンの壁って破壊できないとされているんじゃなかったけ?
うん、あの二人が苦戦する姿は想像できないな。
とまぁ、全体的に白けているというか、弛緩した雰囲気なのだが。
「ラック様……怖いですわ」
「大丈夫です。エリザベス様は私が守ります。命を賭けてでも」
「いけません! ラック様が死んでしまったら、私――っ!」
「エリザベス様……」
「ラック様……」
二人の世界を作り出すバカップルだった。エリザベス嬢は基本的にすごくまともなのだが、ラックが関わるとすごくポンコツになるんだよな。まともな人間がいねぇ……。ツッコミ役、ツッコミ役が増えないものか……。
「アーク君もボケキャラだものね」
「俺がいつボケたよ?」
「エブリタイム」
「エブリタイム!?」
まさかの前世言葉でのツッコミをされてしまった。なぜだ。




