閑話 ゴブリン・2
腰のホルスターから二つの『魔法の杖』を取り出す。
本来、魔術師が魔法の補助に使う魔法の杖は自分の身長ほどもあるのが普通となる。長ければ長いほど『魔力増加装置』としての役割を果たせるためだ。
しかし、クルスが手にしているものは本来長いはずのワンドを幾重にも折り曲げ、魔力増加装置としての機能を残しつつ取り回しがしやすいようにしたものだった。
無論普通のワンドより質は劣ってしまうが、それは『二本持ち』によってカバーしているのがクルスの戦術だ。
その見た目は、もはや『魔法の杖』というよりも『二丁拳銃』と呼んだ方が近いかもしれない。
――実際。このワンドを開発した人間は前世の知識を活用してこのような見た目にしたのだが……クルスには知る由もないことだし、今の状況にも関係ないことだ。
「――雷撃!」
極限まで短縮した呪文と、極限まで短くした『拳銃』。もちろん呪文詠唱は長くなれば長くなるほど強力になるし、ワンドも変な加工をしないようが強い魔法を放つことができる。なのでクルスの雷撃は『当たり所が悪ければ死ぬかも』程度の威力に抑えられていた。
だが、それを数と命中率で補うのがクルスの戦い方だ。
当たり所が悪ければ死ぬ程度の雷撃は、正確無比にゴブリンの頭を撃ち抜き即死させた。
「ひゅう! 相変わらずいい腕だ!」
「……そういう商会長は戦わないので?」
「ははっ、こういうのは若いもんに任せるのが一番早ぇからな」
「よく言いますね……」
ため息をつくしかないクルスだった。
魔法使いがいることは想定外だったのか、ゴブリンたちは警戒しつつそれ以上接近しようとはしなかった。
だが、遠距離線こそ魔法使いの領分。クルスは正確無比にゴブリンの頭を撃ち抜いていき、さほど時間を掛けずに掃討は終了した。
「――おや、クルス君もやはり強いねぇ」
そんな声を掛けてきたのはレディ。
やはり?
疑問を抱きつつ振り返ると――
「――げっ」
思わず声を漏らしてしまったクルスは悪くないだろう。
手にした剣は血まみれ。
全身にゴブリンの返り血を浴びて。
剣を持っていない左手には討伐したゴブリンの右耳五つを握りしめているのが今のレディなのだ。夜中に出会ったら叫ぶ自信があるな、と密かに思うクルスだった。
「……やっぱり失礼なことを考えてないかい?」
「いえ、まさか」
誤魔化すように『浄化』の呪文を掛け、レディの身体を綺麗にするクルスだった。もちろん聖女や聖女候補ほどの力はないので、数分かかってしまったが。むしろここは聖職者でもないのに浄化を使えることに驚く場面である。
そしてレディもその貴重さを理解していたようだ。
「おぉ、まさか浄化まで使えるとは……クルス君、私と冒険者パーティーを組まないかい? そうすればお風呂とか着替えの心配をしなくていいからね」
「またそんな無茶な……」
貴族令嬢であるレディが――とは思ったが、あのあの戦い慣れた様子と迷うことなく討伐証明を切り取ったあたり、すでに冒険者として活躍しているのは確定的だろう。
しかし、パーティーを組まないかと言われても、クルスには王女殿下の専属執事という大事な仕事があるのだ。
……いや、まぁ、もしも王女とアークが結ばれた場合、二人のイチャイチャを間近で見せつけられることになってしまうので、いっそ辞めてしまった方が心の平穏は保てそうだが……。ちょっと本気で検討してしまうクルスだった。




