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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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閑話 ゴブリン


 なぜか不機嫌(?)になったレディにクルスが四苦八苦していると。


「――ちっ、面倒だな」


 御者席で馬を操っていた商会長・ガルが舌打ちした。


「どうしました?」


 クルスが荷台の幌から顔を出すと、すぐにその理由が分かった。道を塞ぐように五匹のゴブリンが陣取っているのだ。


 相変わらず、醜悪な見た目である。


 魔物であると一目で分かる緑色の皮膚。髪がなく禿げ上がった頭部。異常なまでに発達したかぎ鼻の上には醜い(こぶ)が幾つも浮かんでいる。


 股間を隠すように腰蓑(こしみの)を巻いているのは、最低限の知性があることを意味しているのだろうか?


(逃げ道を塞いでからの襲撃。だが身を隠しての奇襲ではない。つまりはその程度の知識か……いや)


 そう判断するのは早計かとクルスは首を横に振る。なにせここは王都から魔の森へと繋がる街道。近衛騎士団が魔の森への訓練に向かうたびに、魔の森から王都に魔物が移動してこないよう、魔物が隠れられそうな場所は『掃除』されているのだ。そんな綺麗な街道なので、身を隠しての奇襲のしようがなかったという理由はあるのかもしれない。


 だが、そうなるとなぜわざわざこんな場所で襲撃してくるのかという疑問が湧いてくるのだが。ゴブリンにはゴブリンの狩り場(ナワバリ)があるはずなのだが……。


 そんなことをクルスが考えていると、


「――珍しいね」


 魔物を前にしながら。それでも平然とした声を上げたのはレディだ。


「えぇ、ご令嬢にとって魔物は珍しいでしょうね」


「あぁいや、ゴブリン程度は珍しくもないよ。よくお兄様たちと一緒に討伐していたからね」


「……魔物を、討伐?」


 なんか今とんでもないことを口走らなかったかと冷や汗を流すクルスだ。


「そうそう。特にうちの兄は剣の腕が良かったのでね。色々と学んだんだよ。お姉様もお誘いしたのだけど、あの人は魔法があれば十分という主義の人だったのでね。剣は学んでくれなかったんだ」


「は、はぁ」


 貴族の子息が剣を学ぶのは普通のことだ。戦場において領兵を率い、王のために戦うのが貴族の始まりであったのだから。その流れで『剣くらい振るえなければ』という価値観は今でも根強いのだ。


 しかし、貴族子女が剣を振るうなど聞いたこともないクルスだ。……いや近衛騎士団には幾人か『元』貴族令嬢がいるとも聞くし、近衛騎士団長もどこかの国の貴族だったという噂もあるにはあるが……。


「レディが剣を振るのですか?」


 ここで言う『レディ』とは高位貴族令嬢(レディ)という意味だ。が、レディは「貴女(レディ)が剣を振るのですか?」と受け取ったようだ。


「おっと、見た目で判断してはいけないよクルス君? 確かに私は細身だし、指も細く美しいし、なにより争いごとを嫌う深窓の令嬢にしか見えないかもしれないけどね。剣の腕は中々のものなんだよ?」


 よほど自信があるのか『ドヤッ』という顔をするレディだった。


「あ、はぁ」


 どこからどう見ても『深窓の令嬢』には見えませんが。とは、口にしないクルスだ。


「……キミ、何か失礼なことを考えてないかい?」


「……もしやレディは心が読めるのですか?」


「言っただろう? キミが分かり易いだけだよ。……それに、心が読めたならこんなに手こずってはいないさ」


「はぁ?」


 手こずるとは何のことだろうかと首をかしげるクルスだった。


「とにかく、挟み撃ちを何とかしないとね。正面のゴブリンは任せたよクルス君」


「え? ちょっと――」


 クルスの返事も聞かず、空間収納(ストレージ)から長剣を取り出すレディ。女性が護身用に使う細剣(レイピア)などではない、実戦向きの、刃が分厚い、騎士団が使うような両手剣だ。


 女性であろうと身体強化(ミュスクル)を掛ければあんな剣も扱えるだろう。だが、いくら何でも実戦は……。


 止めようとしたクルスだが――やめた。


 理由の一つはレディの剣が明らかに使い込まれていたこと。ちょっとやそっとの鍛錬ではあのようにこなれた(・・・・)剣にはならないだろう。


 そして二つ目はレディの身軽さ。さすが王都から出発する際に楽々と馬車に飛び乗っただけあって運動神経もいい。


 さらに一つ付け加えれば……。実際、レディは強かった。


 馬車から飛び降りながらの一閃で、もう一匹のゴブリンを切り捨てている。さらには馬車で上手く背後(死角)を隠しながらの立ち回り。……実戦を何度も経験した者の動きだ。


 これは、下手に手助けする方が邪魔になるなと判断したところで、


「――おいクルス! 嬢ちゃんは大丈夫だからこっちを何とかしてくれ!」


 レディの腕前は知っていたのか、ガルがそんな声を上げたのでクルスは迷うことなく馬車の正面、ガルの応援に向かった。





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