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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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閑話 馬車で・1


 王女ソフィーの執事・クルスと、謎の貴族令嬢・レディ。そして商会長のガルは魔の森目指して荷馬車を走らせていた。


 いや、荷馬車用の馬なので『走らせる』というよりは『歩かせる』といった方が適している速度だったのだが。


 一刻も早くアークの元へ行き、王女救出への助力を賜りたいのがクルスの本音だ。が、ここで焦っても何の意味もないことをクルスは分かっていた。速度より牽引力と持久力を重視される荷馬車用の馬に鞭を振るっても速度に大した差はないし、バテてしまっては逆に時間が掛かるからだ。


 正直クルスが走った方が遥かに早いが、彼の体力では魔の森に到着する前にこれまたバテてしまうだろう。


 そもそも、そんな考え無しの行動ができるなら、王女が軟禁されそうになったときに抵抗しているのだ。


 なるべく体力を温存し、王都でアークと共に戦う。そのためにはなるべく体力の消耗は避けなければならない。


(いくら王太子(アレ)がアホだからといって、実の妹をすぐに処刑したりはしないはずだ。王女殿下を救出する時間的余裕はまだある)


 自分に言い聞かせるように思考を深めるクルス。


(それに……。あのアリスとかいう男爵令嬢。彼女であれば王女殿下の利用価値を十分に理解し、傷つけるようなことはしないはずだ)


 下級貴族の娘でありながら王太子やその側近たちに取り入ってみせた手腕。その中で垣間見せた謀略。そんな女が王女の利用価値に気づかぬはずがない。


 他国への貢ぎ物として王女を嫁がせるか、あるいは政変に協力した大貴族に下賜するか。もしくは他の使い道を用意するか……。どんな手を打つにしても、話を纏めるにはそれなりの時間が掛かるはずだ。


(その間に、こちらも打てる手を打つ)


 忌々しいことだが、あの『ヒロイン』がいるからこそ、王女殿下の安全は保証されているだろうと信じるクルスだった。


「……なんだか難しそうな顔をしているね? 何があったのかな?」


 少し心配そうな顔を向けてくるレディ。


「いえ、」


 これまでのやり取りから悪人とは思えないし、貴族令嬢らしからぬ素直さには好感情すら抱いているのがクルスだ。


 しかし、未だに自分の名前を名乗らないし、さらにはクルスに好意を抱いているかのような言動をしてからかってくる少女を信頼し『王女軟禁』を説明できるかというと……いや名前を名乗らないのはクルスが思い出せないのが悪いみたいなのだが……。


 どうしたものかと悩むクルスに対し、レディは気安げに片手を振る。


「あぁ、いや、安心して欲しい。ソフィー(・・・・)専属のクルス君が王都を離れるのだから、ソフィーの身に何かあったのだろうということは察しが付いているからね」


「…………」


 ソフィー。

 貴族令嬢だからこそ、王女殿下を呼び捨てにすることなど許されないと理解しているはず。それでもなおソフィーと呼ぶからには……よほどの親しい間柄にあるか、あるいは貴族としての常識が皆無であるかのどちらかだろう。


 ……後者の可能性も高いよなぁというのが今までのレディの言動を目にしてきたクルスの率直な感想だった。


「なにか失礼なことを考えてないかい?」


「ま、まさか」


 まさか『冷静沈着(クール)』と表されることの多い自分の考えを見抜くとは……もしかして、噂に聞く読心術の使い手……?


「いや、クルス君が分かり易いだけだよ?」


 やーれやれと肩をすくめるレディだった。


「いいかい? 私とソフィーはいわゆる幼なじみだ。幼少期から何度もお茶会をしてきたし、一緒に遠出したこともある。……キミに挨拶をしたのはダンスをしたときの夜会が初めてだが、その前に、一度も、目にしたことが、なかったの、かい? 王女、専属、執事の、クルス、君?」


「…………」


 じとーっとした目を向けられ、冷や汗がだくだくと流れ始めるクルスだった。




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クルス君、かなりのポンコツ?
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