攻略開始
いくらこの世界がゲームそっくりとはいえ、物理法則や魔法の法則はちゃんと存在している。魔物を倒してもアイテムをドロップすることはないし、加工された素材に変化することもない。
魔物を倒したら解体して素材を剥ぎ取り、冒険者ギルドで買い取り。毒のない種類なら肉を食う。それがこの世界というか、現実世界の常識となる。
(う~む?)
灯火を発動し、魔法の明かりで周囲を照らす。あまり才能のない俺でもこのくらいなら問題なく使えるのだ。いわゆる生活魔法だな。
灯火を頼りにシャルロットがいる周辺を探してみるが、魔物らしき死骸はない。
死体が消え、宝石が現れる。
そんなのまるでアイテムドロップのようじゃないか?
「……どういうことだと思う?」
こういうとき頼りになるメイスに質問する俺。
彼女は貯め込んだ知識と鑑定眼による鑑定で仮説を立ててくれた。
「そうですね……。私も実際にダンジョンの中へ入ったことはありませんが、ダンジョンに関する論文は何本か読んだことがあります。
「論文」
本じゃなくて論文というところが本格的というか凄いというか。
「このように魔物が宝石になるなんて前例が思い当たりませんが……。倒しても実体が残らなかったのなら、そもそも実体がなかったのではないでしょうか?」
「実体がない? 幻ってことか?」
「いえ、強力な魔力によって実体を形作っていたものが、倒されたことによって魔力が霧散。実体も消え、核となった宝石だけが残ったのではないでしょうか?」
「そんなことが……」
あり得るのか? とは思うが、ゴースト系の魔物の中には個人の遺物や魔石を核とするものもいるからな。頭ごなしに否定するわけにもいかないか。それにしたってゴーストのような霧っぽい身体じゃなく、シャルロットの結界で轢けるような実体があるというのは信じがたいが……『強力な魔力』とやらがあればいけるのか?
強力な魔力。
一番最初に思いつくのはシルシュのものだ。
「どういうことだ?」
『うーむ? 確かに我の魔力の残滓を感じるのぉ。おそらく洞窟内の魔力を利用したのだろうが……問題は、魔力があるだけではそんな現象は起こらないということじゃ』
「そうなのか?」
『人間だって意思を持ち、呪文を唱えることによって魔法現象を起こすものじゃろう? まぁ何もせずとも風が吹いたり静電気が発生することくらいは否定せぬが、このようにダンジョンができたり魔物が発生するほどの現象は起こらぬはずじゃよ』
「……このダンジョンができたのも、元々はシルシュの魔力が原因なのか?」
『うむ。凄いじゃろう? 褒めてもいいのだぞ?』
なぜかドヤ顔をするシルシュだった。わ、わー、凄いなーシルシュー。さすがドラゴンだぜー。
なんか満足そうな顔になったので話の続きと行くか。
「つまり、何者かの意思があり、ダンジョンが産まれたと?」
『そうじゃろうなぁ。宝物の中には『迷宮王の指輪』があったはずじゃし、それを利用したのじゃろう』
「あすてろ――?」
それってアレじゃないか? 原作ゲームのラスボスが最後に主人公たちを迎え撃つために使用し、大迷宮を作り上げた神代魔導具。
「な、なんでそんな貴重なものを洞窟に放り込んでいるんだよ!?」
『だってダンジョンとか迷宮なんていらんし。湿気が多くてジメジメするし』
「……あー」
なんか傷を癒やしていた地下洞窟でもそんなことを言っていたな。つまり地下にダンジョンを作るより岩山でひなたぼっこする方がいいと。なんとも爬虫類っぽいな。
「それにしたってお前、神代魔導具を……」
まぁドラゴンなんて神代から生きている可能性もあるし、シルシュからすれば珍しくもないのかもしれないが。
……もしかして、そんな感じだからゲームでもラスボスに神代魔導具を渡しちゃったとか? いやいや、さすがにない。ないと信じたいところ。
俺が全力で信じていると、シルシュがやる気満々とばかりに指を鳴らした。
『ともあれ、我が宝物が勝手に動き回っているのなら回収せねばならんな。たまには大掃除もいいじゃろう』
このあとの惨劇が目に見えるような。
「騎士団長ばかりしていて身体が鈍っていたからな。たまには身体を動かすのもいいだろう」
待ちきれないとばかりに肩を回す師匠だった。俺たちをボコるのは『身体を動かす』ことにすらならないらしい。
「あー。なんというか……」
世界一緊迫感のないダンジョン攻略が始まりそうだった。




