洞窟へ
ミラの手によってクーマは復活した。くまのぬいぐるみっぽい姿で。
「なんだ? 結局その姿に戻るのか?」
『……おうよ。俺には別の姿は早すぎたようだぜ……』
なんかしみじみと語るクーマだった。悪役令嬢ーズの手によって巨大化されたり師匠に首を刎ねられたりしたらな。そう思っても仕方ないか。
「あとは、お兄ちゃんにバラバラにされたせいもある」
ミラの辛辣なツッコミだった。ちょっと本気は出したが、逆に言えば手加減したんだぞー? だからこそクーマの頭部も無事に残ったのだろうし。
「ん。そういうところ」
こういうところらしい。
「それに大丈夫。一度『登録』すれば、材料さえあればあの姿にもなれる」
「ほ、ほー、そうなのか……」
それはあの美女姿なのか。あるいは巨人姿なのか……。問い直すのはやめておく俺だった。
◇
「ま、とりあえず聖なる洞窟にでも行ってみるとするか」
シルシュによると凄い弓があるそうだからな。ちょっとウキウキな俺だった。
「洞窟探検! ボクたちも行くよ!」
元気いっぱいに手を上げるシャルロットだった。まぁお前さんは付いてくるだろうな。この行動力の固まりめ。
「聖なる洞窟ですか……」
ちょっとそわそわしているメイスだった。知的好奇心の塊だものな。さらにはエルダードワーフが献上した弓と聞けばもう止まれないだろう。
「ん」
シャルロットのように手を上げるミラ。同行希望ってことか? この子も何だかんだで好奇心旺盛だよな。まぁ魔法使いなら皆そんな感じなのかもしれないが。研究者気質というか何というか。
「そうだなぁ」
シルシュが案内するのだし、戦闘職としては俺と師匠、ラックがいる。何かあっても対応できるだろうし、むしろここに残していく方が危険かもしれない。というわけで、皆で聖なる洞窟とやらに向かうことにした。
◇
聖なる洞窟まではちょっとした登山となった。
訓練を重ねている俺たちや、ドラゴンであるシルシュはとにかく、貴族令嬢であるシャルロットたちにはキツい道のりじゃないかなーっと思ったのだが……。皆、平気な顔して登山しているな? まだまだ子供で小柄なミラまで。
……あー、そうか。シルシュの血で強化されているものな。
よく考えれば魔の森の入り口からここまで休憩無しでやって来られたのだ。登山も平気ということなのだろう。
……もしや、今からでも鍛えれば立派な戦闘職にジョブチェンジできるのでは? 魔力総量が多いシャルロットとミラは魔法剣士で――
「――ん。断固拒否」
心を読んだミラに拒絶されてしまった。強くなれそうなのに勿体ないなー。
「脳筋」
「ぐはっ」
師匠のような扱いをされて心に傷を負った俺だった。
容赦のない少女だなーっと考えながら岩山を登っていると、とある洞窟の前でシルシュが立ち止まった。岩と岩の間に亀裂という感じで開いた穴。
見覚えがある。
俺とラックが寝床にしようとして、俺の力で中の様子を『感じた』結果……ぼやけたというか、地下がありそうなんだが、その地下を探知しようとしても上手く感じられなかった洞窟じゃないか?
ヤバそうな感じがしたし、『前世の記憶』関連の既視感みたいなものがあったので無理をせずに引き返したのだが……。
「この洞窟の中に弓が収められているのか?」
『うむ。せっかくだから宝物庫としても使っていた洞窟じゃな。ドラゴンの魔力で満ちておるので、魔物が荒らしたということもないじゃろう』
「ほーん? じゃあ中の様子を感じられなかったのはシルシュの魔力が原因か? 地下はどれくらいあるんだ?」
『む? 地下などないが?』
「え?」
『え?』
「……俺の『力』で感じた結果、地下がありそうだったんだが?」
『いや、地下などないが? そもそも洞窟に地下などあるまい?』
「そりゃ、そうだけどよぉ」
うーん? と首をかしげる俺とシルシュだった。俺の感じ方が間違っていたのか、あるいはシルシュが別の洞窟と勘違いしているのか……。




