弓
『――なんじゃ? 弓が欲しいのか?』
とてとてと近づいて来たのはシルシュ。粘土遊びはもういいのか?
『うむ。我の芸術性はまだ人類には早すぎたようじゃ』
「あー……」
下手くそすぎての戦力外通告か。シャルロットたちはあれでも貴族令嬢だから褒め称えつつフェードアウトさせるのは得意だろうな。
「弓を持っているのか?」
『うむ。かつてエルダードワーフたちから献上された弓があるはずじゃ』
「ドワーフから献上って……しかもエルダー?」
エルダードワーフというのは初耳だし、ゲームにも設定はなかったはず。だが、エルダーエルフならエルフの上位種族として存在している。普通に交わって繁殖するエルフとは違い、世界樹から直接生み出された種族であるという設定だ。
となると、同じく『エルダー』の名を冠するエルダードワーフって、ものすごい存在なのでは? しかも献上するからには一番質のいいものを選ぶだろうし。
もしかして、最高級レアみたいな一品なのでは?
前世でそういうのが好きだった俺。今世では洋弓(っぽい弓)を使える俺。ちょっとドキドキしてしまうのだった。
『ふっふっふっ、少年のような目をしおって……。良かろう。我が夫になる人間ならば『きょーゆーざいさん』というものじゃからな。好きに使うといい』
「お? マジでか?」
そんなレアなものが使えるなら夫扱いされてもいいやーって思う俺だった。それに『夫』なんて冗談だろうしな。ドラゴンと人間では生物としての格が違いすぎる。たとえば人間がダニと結婚すると言い出したら冗談としか思えない――痛ぇええ!? 師匠にケツ蹴られた!?
比喩じゃなく数メートル吹っ飛ぶ俺。ずささささーっと地面を滑りながら着地する俺。おおう、おおう……。
「ら、ラック……俺のケツ割れてないか……?」
「ケツは元々割れてるもんだろうが。むしろ骨盤の粉砕を心配した方がいいんじゃないか?」
「師匠だもんな……」
「団長だものな……」
「ふっ、照れるな……」
骨盤粉砕 = そんな威力の蹴りが出せる私すごい、という解釈をしたっぽい師匠だった。そういうところですよ?
シルシュの血を浴びたおかげかケガはなし。これはすげぇと感動するべきか、これからは師匠も容赦なくツッコミしてきそうだなと恐れるべきか……。いや、恐ろしい未来予測をするのはやめよう。
「と、ところで弓はどこにあるんだ? 空間収納か?」
『いや、献上品じゃからな。ちゃんと聖なる洞窟に飾ってあるぞ?』
そう言ってシルシュが指差したのは岩山だった。あー、元々は世界樹なら、そりゃ聖なる場所にもなるよな。俺とラックが入ってすぐに引き返した洞窟にはそれっぽいものはなかったから、きっと他の洞窟にあるのだろう。
じゃあさっそく向かってみるかーという話になっていると、
『――ふははははっ!』
高笑い。
クーマの声だ。
なんだなんだもう粘土遊びは終わったのかと俺が振り向くと――そこにいたのは、美人だった。
先ほどと同じボンキュッボンな肉体。色は小麦色にバージョンアップ(?)されていた。さすがに裸体は憚られたのかドレスを着ている。
そして、顔。
髪色はクーマと同じ茶色。
肌色は、これもクーマの毛色をイメージしたのか小麦色。どこか勝ち気な目。そして頭から生えるクマ耳。
美人だ。
活発美人。貴族には中々いないタイプ。シャルロットともまた違うし……似ているとすれば師匠とか、俺の妹くらいか。
でもなぁ。
中身はクーマなんだよなぁ。
そんなクーマ(美人)はやる気満々とばかりに肩を回している。
『さぁ! アーク! 俺は新たな『力』を得た! もう一度勝負だ!』
「…………」
見た目は美女。
なのに声はクーマ。つまり男性声。
何というかさぁ、もうちょっとさぁ、頑張ろうぜ色々と?




