クーマ、いい奴だったよ……
なにやら家の後ろに集まって工作(?)をしているシャルロットたちだった。ちなみに家はバカでかいため裏で何をしているのかは分からない。
そんな皆のノリについて行けないのか、俺たちと一緒に見学側に回ったのはエリザベス嬢だ。
エリザベス嬢とシャルロットは親友、だったはず。
「え~っと、シャルロットたちは昔からあんな感じだったのか?」
「いえ、あそこまでではなかったはずですが……家のしがらみや義務から解放されて『はっちゃけて』いるのではないでしょうか?」
「はっちゃけて」
それにしてもやり過ぎじゃないだろうかと思う俺だった。これはシルシュの血を浴びた悪影響が――いや、無理があるか。それならエリザベス嬢もアレにならなきゃいけないし。
「それと、シャルロット様は演劇を好んでおりましたので、ああいうのがお好きなのかもしれません」
「演劇?」
「えぇ。捨てられた人形がガラクタをつなぎ合わせ、強くなって人間に復讐するというお話があるそうで」
「そんなものがあるのか……」
妹が演劇好きだったからある程度の流行は知っていたつもりだったが、まさかそんなトンチキ――いや、オリジナリティ溢れるものがあったとは。この世界の物語も進んでいるんだなぁ。
と、俺が感心していると、
『――ふははははっ! 俺は力を手に入れたぜ!』
ばばーん! と。
そんな感じの効果音を出してそうな勢いで立ち上がったのはクーマ……だよな?
なんというか、デカい。
前世の体育館ほどはありそうな家を、優に超えるほどの巨体。
顔部分は確かにクーマ。
しかし、胴体から下が異様に盛り上がっている。
あれは……土の塊だろうか? 温泉を作った時みたいにゴーレムで材料を掘り返したのか?
身体の大きさに比べてクーマの首が小さすぎるので、首無しの巨人が動いているように見えるな……。
見上げるほどの巨体になったクーマ。その左手に握られているのは……白い盾?
あぁ、いや、あのつるつる具合、なんか見覚えがあるな? シルシュ(ドラゴン形態)の鱗じゃないか?
なるほどいくら俺でもドラゴンの鱗は斬れない。と思う。ので、盾として使うのは中々良い選択じゃないだろうか?
『ふはは! さぁ勝負だアーク! 先ほどの恨みを晴らしてやるぜ!』
「あー……」
やはりさっきの横凪ぎ&樹木激突は恨みを買っていたらしい。なんかすまんな。
俺としてはクーマの希望通り戦ってやってもいいんだが……。うーん……。
「――ほぉ、これは倒し甲斐のある『敵』だな」
すまんクーマ。いつの間にか師匠が起きていたらしい。
キラキラとした目をクーマ(大)に向ける師匠。
たぶんこの人の中では、
デカい = 強い = 楽しめる
という図式になっているのだろう。こうなったこの人は止められないんだよなぁ。この戦闘狂め……。
「……すまんクーマ。これは止められん」
クーマの顔は元のぬいぐるみ風のまま。つまりは無表情のはずなんだが、なんだか顔が青くなり絶望の表情を浮かべている気がする。
しかし、クーマは漢だった。
『……ふっ! 今の俺は力を得た! バケモノ相手でも負けないぜ!』
果敢にも師匠に立ち向かおうとするクーマ。その格好良さに敬意を表して「今のお前さんの見た目も十分バケモノだけどな」というツッコミは胸にしまっておくとしよう。
『ぬおおぉおおおぉおおぉおおおおっ!』
絶叫しながら師匠に拳を振り下ろすクーマ。速度自体は遅めだが、拳自体に面積がある。普通の人間が避けようとして走っても、逃げ切れずに押しつぶされてしまうだろう。
ただし、それは相手が普通の人間だった場合だ。
「……ふっ、期待外れか」
まるでラスボスみたいなことを言いながら師匠が飛んだ。そのままクーマの拳の上に着地し、上腕、二の腕、肩へと駆け上がっていく。
『ぬ、ぬおぉおおおぉお!?』
恐怖で裏返った声を発したクーマが、空いた左手(&シルシュの鱗)で師匠をはたき落とそうとするが……遅い遅い。すでに師匠はクーマの右腕を登り切っている。
そして――
「秘剣! 積乱破!」
師匠が剣を横凪いだ。
そう。俺より遥かに手加減というものをできない師匠が。
――ちなみに師匠の技名はテキトーであり、その場のノリと勢いで考えているものだ。
と、俺が現実逃避をしていると――師匠の剣は容赦なくクーマの首を刎ねたのだった。
く、クーマぁああああぁああ!?




