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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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戦い・3



 アークとライラの戦いを目にして、メイスは危機感を募らせていた。


 メイスは戦いの素人なので詳しいことは分からない。だが、ライラが身体強化(ミュスクル)を使って以降、アークの攻撃がライラに届かなくなったことくらいは見て取れた。


 こういうものを防戦一方というのだろうとメイスは考える。もしかしたらアークは隙を伺っているのかもしれないが……彼の苦しそうな表情からして、そういうわけでもなさそうだ。


 もしもアークが負け、アークとラックが魔の森から去ることになれば……ほぼ確実にメイスたちは死ぬだろう。


 それが恐ろしくないと言えば、嘘になる。自分が生き残るためにアークを求めているのだろうと指摘されれば、首を縦に振るしかない。


 だが。

 それよりも、何よりも……メイスは、アークという好人物と離ればなれになってしまうことを恐れていた。


 まだ、愛ではない。

 まだ、恋でもないと思う。

 だが、いずれは……。


 どうしたものかとメイスは焦る。


 まず真っ先に目を向けたのはドラゴンであるシルシュ。だが、彼女はもう戦いに興味を失ったのか「お湯がぬるいのぉ」とぼやきながらお湯に浸かっている。


 次いで目を向けたシャルロットは、汗を流しながらアークに身体強化(ミュスクル)を掛け続けていた。いくら銀髪持ちで常人より保有魔力が多くとも、先ほどゴーレムを作ったりミラへ魔力を分け与えたりしたのだ。もはやそれほど余裕はないだろう。


 その意味で言えば、今日魔法を使いすぎたミラにも余裕はないはず。そう考えながらメイスがミラに視線を向けると――


「わ!? ミラ様! 駄目ですよ!?」


 驚愕の声を上げるメイス。ミラは(消費魔力の少ない)ファイヤーボールを出現させ、ライラに向けて投げつけようとしていたのだ。


「ん。大丈夫。あの頑丈さなら直撃しても死なない」


「それは心配していませんが! あれだけ激しく動いているのですからアーク様に当たってしまう可能性が!」


「……ん」


 ファイヤーボールを投げるのはやめたミラだが、炎を消す様子はない。「せっかく出したのにもったいない」とその顔に書いてある。気がする。


 ミラの暴挙は止まったが、アークの戦いが好転するわけではない。自分でも何かできないか。できないものかとメイスは頭を回転させ続ける。


 もうすぐ、もうすぐ『何か』を思いつく気はするのだが……。


 …………。


 水がぬるいと文句を言うシルシュ。


 身体強化(ミュスクル)を掛け続けるシャルロット。


 ファイヤーボールを出したままのミラ。


 水。


 シャルロット。


 ファイヤーボール。


「――っ! シルシュ様! 失礼します!」


 急造の温泉に駆け寄り、お湯の中に手を突っ込むメイス。


 そのまま魔力を一気に流し込み――ぬるま湯を水に変える(・・・・・・・・・・)。メイスはシャルロットやミラほどの魔力はないが、それでも貴族令嬢。人より多めの、今日ほとんど使用しなかった魔力は温泉のぬるま湯を一気に冷やしてみせた。


「みぎゃあ!? 冷たい!?」


 ドラゴンのくせに大げさに驚くシルシュはとりあえず無視。


「ミラ様! ファイヤーボールを圧縮して湯船に! あのときのシャルロット様のように!」


「……ん」


 なんだかよく分かっていなさそうな顔をするミラだが、お願い通りファイヤーボールを圧縮し、冷え切った温泉に投げ込んだ。――シャルロットが水蒸気爆発を起こしたときと同じように。


「伏せてください!」


 直後、爆音。


 爆風が一気に吹き抜け、水蒸気が煙のように辺りを包み込んだ。


 シャルロットよりも魔法の扱いが巧みなミラが行ったせいか、あのときよりも広範囲に、濃く霧巻いた水蒸気は今なお戦いを続けるアークとライラすらも包み込んでしまう。


 あれではもはや何も見えないだろう。それは騎士団長であろうが勇者であろうが変わらないはず。


 だが。

 アークならば相手がどこにいるか感じられる(・・・・・)はずだ。





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