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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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おもしれー女・その2


 しばらく休憩をしたあと。


 皆の体調に問題はなさそうなので馬車は再び進み始めたのだが……。助手席に座るのはシャルロットではなく、別の少女となっていた。


 メイス・ミライン侯爵令嬢。


 第一騎士団長の息子の(元)婚約者であり、脳筋である彼を支えるために聡明な女性が選ばれた。というのがもっぱらの噂だ。


 ちなみに俺の所属する近衛騎士団は王族の護衛や王城の警備を主任務にしているのに対し、第一騎士団は他国との戦争を想定して設立されたという経緯がある。


 王族の近くにいるからこそ近衛騎士団は中位~高位貴族の(家を継げない)次男や三男ばかりが集まっているし、逆に『気楽に使い捨てできるよう』第一騎士団は下級貴族の息子や庶民で構成されている。


 まぁつまり、「第一騎士団は野蛮だな」、「騎士のくせに戦争も知らないお坊ちゃま連中め」とお互いを軽蔑し合っているのが近衛騎士団と第一騎士団だったりする。


 それはともかく、メイス嬢は選ばれ方がアレなせいか一目見るだけで『知的美少女!』と分かる外見をしている。特に目を引くのは大きめの丸眼鏡。


 貴族としての価値観では『眼鏡なんて……』と嘲笑の的になってしまうが、個人的にはとても似合っていて可愛らしいと思う。うん、前世の記憶を思い出した今なら『眼鏡っ娘』という素晴らしい表現を使うこともできる。


 ……なんだか、ここにいないはずの妹から「兄様の女たらし……」と罵られた気がするが、たぶん気のせいだろう。


 とにかく。隣に座ったなら雑談して交流を深めようとするのが人情というものだ。……沈黙を好む人間もいるのは理解しているが、メイス嬢は特に不快感をあらわにするでもなく会話に応じてくれた。


「騎士様。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。職務の最中でしたのに……」


「いや、お気になさらず。騎士としての仕事は大切ですが、女性をエスコートするのは男としての使命ですから」


「お上手ですね。アレ(・・)も、このくらい気の利いたことを言ってくだされば良かったのですけど」


 アレというのは婚約破棄してきた第一騎士団長の息子のことだろうな、と察する俺である。


 あいつとは騎士団の演習などで何度かやり取りしたことがあるが……。


「なんというか、会話ができないタイプでしたね。婚約者として付き合うのは大変だったでしょう?」


「ご理解いただけますか!」


 我が意を得たりとばかりに目を輝かせるメイス嬢だった。


「そうなんです! アレは理屈が通じないというか、一度決めたらこちらの意見を聞かなくて! でも周りの人間は『妻になるんだからお前が合わせろ』としか言ってくれなくて……っ! 同情していただけたのは初めてです!」


「お、おう、そうですか、大変でしたね……」


 よほど苦労していたんだなぁと心底同情する俺だった。


「安心しました。やはり(・・・)騎士様は良い人だったのですね。いくら実質的な処刑宣告を受けた身とはいえ、死ぬ前に辱めを受けるのは避けたかったですから」


「…………」


 辱めっていうのは、まぁ、あれだ。『へっへっへっ、どうせ死ぬんだからその前に楽しませてもらうぜ!』ってヤツだろうな。シャルロットの言う悪役騎士ならやりそうなことだ。


 俺はそんなことをするような人間ではない。と、判断してもらえたのは素直に嬉しいが……。気になるのは『やはり良い人』という物言いだ。


「やはりとは、どういうことです?」


「えぇ。本質的に、良い人か悪い人かくらいは視れば(・・・)分かりますから」


 視れば、分かる。


 その言葉に俺は思い当たる節があった。前世知識というか、シナリオ知識というか。


鑑定眼(アプレイゼル)ですか?」


 その名の通り、物事を鑑定できるスキル。疑いようもなく便利な力だが、だからこそ鑑定眼(アプレイゼル)持ちは優遇され、このように追放されることはないと思うのだが……。


 俺の言葉に、メイスは目を丸くして驚いていた。


「凄いです。まさかこれだけのやり取りで見抜かれるとは……」


「……おいおい、マジか。マジで鑑定眼(アプレイゼル)持ちか? そんな貴重な人材を婚約破棄して追放したのかあいつらは?」


 おっと、しまった。ついつい口調が乱雑なものになってしまった。まぁそれだけ衝撃的だったってことだ。


「えぇ、まぁ、そもそも教えていませんでしたし。……殿下はともかく、アレは本当に頭が悪いので鑑定眼(アプレイゼル)持ちと知っていても婚約破棄してきたでしょうけれど」


 元婚約者の評価が低いのは当然であるとして、だ。


「教えてなかったのですか?」


「はい。家庭環境的に、鑑定眼(アプレイゼル)持ちだと知られると使い潰されることは分かっていましたので」


「ははぁ、それはそれは……」


 どういう家庭環境かは知らないが、自分の持つ力を自覚するのは少女時代だろうし、その頃から自分で考え、自衛していたのか。とんでもない頭の良さだな。


「……あの、騎士様。私は追放された身ですし、おそらく実家もこの件を知れば除名するでしょう。どうか、シャルロット様と同じように砕けた口調で接してくださればと」


「口調に関しては俺としても楽だから望むところだが……シャルロットと同じように? 俺たちのやり取りが聞こえていたのか?」


「はい。私の席は前側――御者席とは壁を挟んで背中合わせの席でしたし。耳を澄ませれば聞こえてしまいました。私の隣に座っていたミラ様にも聞こえていたかと」


 ミラというのは婚約破棄された令嬢の中でも一回り小さな子だったか?


「ということは……あの会話も聞こえていたのか?」


「はい。前世の記憶とか、シナリオとかいうものですね?」


「マジかぁ……」


 頭を抱えてしまう俺だった。シャルロットはまぁ同類だと考えるとして、まさかこんな真面目そうなメイス嬢にまで知られてしまうとは……。『中二病はさっさと卒業されては?』と冷たい目を向けられたら泣けるな。いやこの世界に中二病なんて言葉はないが。


「安心してください。私はそういう話にも理解がありますから」


「そ、そうか?」


「はい! むしろ興味深いですよね! 一人であれば妄想である可能性が高いですが、二人となると現実味が増してきます! しかも普段のシャルロット様は聡明ですからね! 妄想と現実の区別が付かないということはないでしょうし、これは事実と判断した方がいいでしょう! こことは異なる世界! それはローン・アライト教授の著書『時空と次元』によって語られていますが、それを裏付ける話となるでしょう! しかし別世界の魂がこちらの世界にやって来るというのは――そもそも魂は何か――記憶とは脳に刻まれるものじゃないのでしょうか――」


 なぜだか目を輝かせながら、ブツブツと自分の思考に没頭するメイス嬢だった。


 あ、もしや、コイツもおもしれー女だな?


 俺がちょっと遠くを眺めていると、メイス嬢は一転して暗い顔となった。


「いえ、こんな考察をしても仕方ありませんか。私はもうすぐ魔の森に捨てられて、魔物に食い殺される運命なのですから」


「……いや、そう悲観するなって。王太子とその取り巻きの乱心なら国王陛下が窘めてくださるだろうし、すぐに無罪を知らせる早馬がやって来るだろう。もしもそれがなくても、『魔の森に捨ててきた』という(てい)にして逃がしてやるし――」


「甘いです」


 俺の考えをメイスはバッサリと切り捨てた。


あの(・・)国王陛下はこの機を逃しはしません。早馬など来ないでしょう」


 確信を抱いたメイスの瞳。

 その鑑定眼(アプレイゼル)で何かを視たのだろうか?


鑑定眼(アプレイゼル)ってのは心まで読めるのか?」


私は(・・)読めませんよ。鑑定眼(アプレイゼル)はそこまで便利な力じゃありません。人間に対してはスキルや本質が分かるくらいで」


 まるで他に心が読める人間がいるかのような物言いだな……?


「とにかく。恩赦の早馬は来ないでしょうし、たとえ騎士様が逃がしてくださったところで、平民としての生活をしたことがない私たちだけでは生き延びることなどできないでしょう。普通の貴族令嬢とは、自分で着替えることすらしないのですよ?」


「……そうか」


 どうやら俺の考えは甘かったらしい。確かに、魔の森から逃がしたところでその後の安全が保証されたわけじゃないものな。……いやシャルロットならどうとでもしそうだが、他のご令嬢となると……。


 もう少し真面目に考えなきゃ駄目か。


 自らの視界の狭さを恥じつつ、ふと気づいた俺はメイス嬢に提案した。


「騎士様ってのは他人行儀だな。俺のことはアークとでも呼んでくれ」


「…………。……はい、そうですね。アーク様」


 これから来たる過酷な運命を理解しながら。それでもメイス嬢は笑ってくれたのだった。





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― 新着の感想 ―
設定を特に考えてない部分は、現実化するときに辻褄合わせでどうなるかわからないしな。 ありえんくらいのクズにもなったりするんだろう
原作者も知らない王の設定があるのか
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