非常識
『はぁ……神代竜や邪神相手にも対等に接するそのお姿……素敵です……これが次代の魔王様……』
なんかうっとりとした顔をする修道女・ギーナさんだった。え? なにこれこわい。
「まーた妙な女を引っかけたのか」
『これだからアークは』
≪なっ≫
なぜか非難の目を向けられてしまう俺だった。え? これ俺が悪いの? 引っかけたというか、あっちから突っ込んできたというか……。
そんな俺たちのやり取りは聞こえていないのか、ギーナさんはうっとりとした顔をさらに深めていく。いやうっとりとした顔を深めるって何だよって感じだが、そうとしか表現できないのだ。
『しかも顔も凜々しいですし……魔王に相応しい悪役顔……こんなお方にお仕えできるとは……』
それ、褒めてる? 俺の顔、褒めてる? 悪役顔で怖がられたりするのはよくあるが、うっとりされたのは初めてだな……。
いや、いやいや。それよりも気になることがある。
「ギーナさん」
『まぁ、アーク様。どうぞ気安くギーナと呼び捨てにしてください。敬語も不要でございます』
「え? まぁ、本人がいいならいいけどよ……」
『お望みでしたら「卑しい雌ブタめ」でもよろしいですが?』
「こちらがよろしくありませんね……」
思わず敬語になってしまう俺だった。やだもー、またキャラの濃い女性が現れたー。というか魔族でもブタはそういう扱いなのー?
「…………。……あー、俺の名前を知っているのか?」
『はい。神託によって』
「俺に仕えるというのは?」
『そのままの意味ですが? 神託に従い、お仕えいたします』
「……神託ねぇ?」
シルシュの方を見ると『知らん知らん』という反応。ナッちゃんは……うん、関係なさそう。
神託。
心当たりは一人。こういう面白い状況が大好きで、俺が魔王になることにノリノリで、魔族と交流があっても不思議じゃなさそうなリスが。
「神託と言うが、そんなもんで仕える相手を決めていいのか?」
『神と対等に接することのできるアーク様であればその程度の扱いかもしれませんが……凡百にとって神託とは人生を左右するものなのですよ?』
「……たぶんその神託をした神は知り合いだから、『調子に乗るな』とツッコミを入れてやってもいいぞ?」
『いえいえ、いえいえいえ』
冷や汗だくだくになるギーナだった。大げさだなぁ。あのリス、ちょっと最終戦争で神々に反旗を翻す程度のリスなのに。
『いえいえいえいえいえいえいえ』
めっちゃ頬をひくつかせるギーナだった。なんかおもしれー女っぽかったけど、意外と常識人だったりして?
「ないな」
『うむ、アークの非常識さに上書きされただけじゃな』
≪なっ≫
三人から次々にツッコミが。え? 俺って雌ブタ扱いもO.K.な人より非常識なの?




