なっ
シルシュのデコピンを受けてゴロゴロと砂浜を転がる俺だった。うぉおおお、頭割れそう……そして口や服の間に砂が、砂が……。
『戯れとはいえ、神代竜の攻撃を受けて原形を留めているとは――さすがは「魔王様」でございます』
と、そんな声が降ってきた。魔王様?
まだ年若い女性の声。
見上げると、そこにいたのは漆黒の修道女服を着込んだ女性だった。いかにも優しげで、いかにも聖職者っぽい風貌をしている。
こっちの世界の修道女は『穢れなさの証』として白い服を着ていることが多いのだが……それは人間だけの理屈なのかもしれないな。
そんな修道女服の女性の髪色は銀で、肌の色は小麦色。そして横に伸びた耳なので……たぶんダークエルフだと思う。いやこっちの世界だと魔族か。
ちなみに魔族にも『ダークエルフ』と『頭から角が生えていたり背中から羽根が生えている』パターンがあるみたいだが……違いは分からん。メイスに聞けば分かるかもしれんが、ここにメイスはいないからな。わざわざそんなことを質問するために転移魔法で戻るのも手間だし。
「えーっと、あんたは?」
『申し遅れました。私の名前はギーナ。人間たちが魔族と呼ぶ存在です』
「ほぅ。これはご丁寧に。俺は――」
『存じております。神託がありましたので』
「神託?」
『はい。この日、この場所に。魔王となり我ら魔族を導く存在が現れると』
「へー」
自然と師匠やシルシュの方を見る俺だった。だって『魔王』なら師匠の方が相応しいし、導くとかソッチ系は神格者であるシルシュの方が適任だからだ。
「なんでだ」
『なんでじゃ』
しっしっ、と追い払われるようなジェスチャーをされてしまった。あ、やっぱり俺が魔王になる系……? いやしかし魔王ならナッちゃんという可能性も……。
≪なー≫
んなわけないだろアホか、みたいな反応をされてしまった。なんかだんだん口悪くなってきてない?
もはや言い逃れも出来そうもないので、修道女姿の女性に首を向ける。
「……俺?」
『はい、間違いなく。その血も涙もなさそうな凜々しき風貌。神託通りです』
血も涙もなさそうって。もうちょっと言い方はないの? ほら、俺って追放された女子を匿うほど心優しい人なんだが?
「はっ」
『はっ』
≪はっ≫
師匠、シルシュ、ナッちゃんに次々と鼻を鳴らされてしまった。……いやナッちゃん? あなた今≪なっ≫以外の言葉発しませんでした? 気のせい? 気のせいじゃないよな?
≪なっ≫
そもそも邪神が≪なっ≫以外の言葉を喋れないはずがないだろう、みたいな感じで肩をすくめられてしまった。肩なんてないけどな。
いや喋れるなら喋らんかーい、と、ツッコミを入れてしまう俺だった。




