殲滅力・高
『――うむ、ではさっさと転移してしまうか』
ぱんっ、と手を叩くシルシュだった。たぶん今まで気づいていなかったことをごまかしているのだと思う。
『うっさいわ』
シルシュが睨んできたのとほど同時に転移特有の『ぐわん』という感覚が。しかしもう慣れたものなので目をつぶって不快感をやり過ごす。
足元の感覚が変わる。海の上のおぼつかない感じから、砂を踏みしめている感覚へと。
目を開けると、そこは海岸のようだった。なんやかんや歩いているうちに日が暮れたので、辺りは暗くなり始めている。
「潜伏するには都合のいい時間帯っすね」
「うむ」
そんなやり取りをしながら周囲を確認する。背後に海。足元は砂浜。目の前には切り立った崖と、その上には森。まぁ普通の海岸ってところか。
正直、魔族の島と言うからにはもっとおどろおどろしい感じを想像していたんだが……意外と普通だな。いや住んでる種族によって地形やら植生やらが変わることなんてないのは分かるんだが。ほら、イメージがな?
『そもそもイメージだけなら魔王やら邪神やらが住んでいる魔の森の方が悪いじゃろ』
へっ、と鼻を鳴らすシルシュだった。邪神ってのはナッちゃんのことだろうが……魔王って俺のこと? こんな心優しい俺を魔王扱いするのは無理がないか?
≪なっ≫
おいおい、誰が優しいって? 冗談は顔だけにしておけよ。みたいなツッコミをしてくるナッちゃんだった。……え? ナッちゃんも付いてきていたの?
≪なっ≫
もちろんさ、私とアークの仲だろう? みたいに右手(?)を上げるナッちゃんだった。どんな仲なのやら。
…………。
というか。
元勇者。
神代竜。
邪神。
うちの中でも戦闘能力というか殲滅力が高い三人が勢揃いだった。
あ、これ、魔族滅びるな。
≪なっ≫
アークもいるしな、みたいな感じで以下略。いやいや俺とお前さんたち三人を比べてもな? 戦闘能力も殲滅力も比較にならんだろ。
≪なー……≫
これだから自覚のないバケモノは……。みたいなため息をつかれてしまった。邪神からバケモノ扱いされる俺って……。ちょっと聖剣と神剣を腰に差しているだけなのに……。
『――ようこそいらっしゃいました』
と、不意に声を掛けられた。
いやまぁ実際は『不意に』ではないが。気配自体は感じ取っていたのだが。敵か味方か分からないので様子をうかがっていたのだ。たぶん師匠とシルシュも。……いやシルシュは案外抜けているから気づいていない可能性も――痛ぇえええ!? デコピンされた!? 俺が反応できない速度で!?




