気づく
さて。のんびりと海の上を歩き始めた俺たちなんだが……。よく考えたら徒歩で海を渡って島に行くのって超時間掛かるのでは?
「なに、行軍訓練だと思えばいい」
「いったい何百キロ行軍する予定なので?」
「疲れたら海の上で眠ればいいさ」
「なんか理解しがたい発言が……」
え? 海の上で眠れるの? この人? ほんとに人? 人外じゃね?
いや俺も海の上を歩いているがな……寝るのは格が違うだろ……さすが師匠……さすが元勇者……。
『どっちも大して変わらんわ』
ビシッとツッコミを入れてくるシルシュだった。しかしなぁ。意識があれば大波を乗り越えることができるし、沈むこともないだろう? でも眠ったらたぶん沈むぞ? 波も思いっきり被りそうだし……。そんな状態で安眠するの、無理だろ。つまり師匠は人外。Q.E.D(証明終了)
『変わらん、変わらん。このトンデモ人外どもが』
神話の時代から生きているというドラゴンに人外認定されてしまった。なぜだ……。
◇
『――な、なんだ貴様らは!?』
またまたまた。空を飛んできた魔族に発見されてしまう俺たちだった。まーよく考えたら魔族の島に真っ直ぐ進んでいるものな。偵察にやって来る魔族と鉢合わせになる可能性は高いのか。
というか、また一人かい。いい加減部隊を動かせ以下略。そんなんだから力に劣る人類に押し返されて島に引きこもるハメになるんだ以下略。
「ま、もう情報は十分だわな」
『うむ、では排除するか』
人型のままドラゴン・ブレスを発射するシルシュだった。対人のためか出力が弱めというか細めだな。いつも盛大にぶっ放しているシルシュだが、節約という概念はあるらしい。
もちろん、細めとはいえドラゴン・ブレスはドラゴン・ブレス。生身の生物が耐えられるものではない。憐れな魔族は断末魔を上げることすらできずに消滅してしまったのだった。
まぁ、今までの魔族と比べれば、苦しむ時間が少なくて良かったんじゃないか? ……おっと違った。俺も別に苦しませる予定はなかったからな。不幸な事故だ事故。
しかし、このままだとさらに魔族とエンカウントしそうだなぁ。
「師匠ー、これはもう一気に攻め込んだ方がいいんじゃないっすか?」
歩くのだるい。という本音はひた隠して師匠に提案する俺だった。
「うむ、それもそうだな……。もうすぐ日が暮れるし、夜になってからシルシュの転移魔法で転移。襲撃をかけるのがいいだろう」
すんなりと提案を受け入れてくれる師匠だった。一人でやって来る魔族相手に飽きたのかもしれない。師匠って一気に殲滅するのが好きだから……。
というか。よく考えればシルシュは魔族の島の場所を知っているのだから、シルシュに転移してもらえば良かったんだよな。なぁんで気づかないかねぇ俺。いや転移魔法を使わずに飛んでいったシルシュが原因と言えば原因なんだが。たぶんシルシュも怒っていたせいで気づいていなかったな……。
ちなみに師匠は気づいていたっぽいが、行軍訓練を優先したのだと思う。この人は……。




