不在
ずいぶんと気のいい魔族だったので、情報もすんなり吐いてくれた。きっと転生先で幸せになってくれることだろう。
さて。ともあれ。
この魔族も公爵の手下であるらしい。偵察に向かった魔族が二人も消息不明になったから派遣されてきたと。
二人続けて消息不明になった時点で大規模に動くべき以下略。まぁ魔族って個々人の力を以下略。
ここにきて、丸く収める方法を思いついた俺である。
「なぁシルシュ。どうやらケンカを売ってきているのは公爵らしい」
『うむ、そうらしいな』
「なら、公爵の首を取れば万事丸く収まるじゃないか」
公爵が死ねばもう魔族がやって来ることはない。
反対派筆頭の公爵が消えれば、魔王も無理してヴィナ(王族)と結婚しなくてもいいだろう。
あとはちょっと魔王を脅しておけば平和的な解決となるじゃないか。
『なるほど、それが一番穏当か』
「さすが、冴えているではないかアークよ」
満足げに頷くシルシュと師匠だった。よし、今後の方針は決まったな。二人と一緒に頷く俺だった。
――魔族にとっては不幸なことに、ツッコミ役がいない。
◇
「さーって、じゃあシルシュの背中に乗って魔王領に潜入するかー」
さすがにまた咥えられるのはなぁ。という心境からの提案だったのだが。
「いや、さすがにドラゴンが飛来すれば魔族も気づくだろう。暗殺をするなら不適切だ」
俺の意見を否決する師匠だった。潜入・暗殺に一家言ある近衛騎士団長って……。
ま、勇者って言うなれば少数精鋭で魔王暗殺を狙う特殊部隊だからな。そっち方面に詳しくて当然なのか。
「じゃあ、どうするんすか?」
「無論、歩いて魔族の島まで行く」
「……マジっすか?」
「マジだ。人間形態であればドラゴンであると露見しにくいのは私が経験している」
そういえば、師匠ってシルシュの気配を辿ったこともあるんだっけ? うーん、魔術に長けた魔族ならそれでも気づきそうだが……バレる可能性が低いならそっちの方がいいか?
師匠とシルシュがいれば真っ正面から殲滅できるが、犠牲者が多くなりすぎるしな。……もちろん、師匠とシルシュの心配などしない俺である。蟻を踏みつぶす象の方を心配する人間がどこにいるのか。
「……歩きかぁ」
「うむ。そうなるな」
「……空間を斬って移動するのはどうっすかね?」
「そもそも魔族の島の場所が分かるのか?」
「うーん」
シルシュは迷うことなく飛んでいたから知っているんだろうが、俺は知らないからなぁ。空間を繋げるのは無理かぁ。
「これも修行だな」
ちょっとウキウキしている師匠だった。わー、かわいいなー……。




