がぼがぼ
『くそ!? なんだお前ら!? なぜ海の上に立っている!? 妖魔の類いか!?』
なんか一人で盛り上がっている魔族だった。妖魔って何? 妖怪みたいな?
うん、まぁ、でも。海の上に三人も立っていたら怖いよな。魔族の気持ちも分かるぜ。やはり魔族とだって心を通じ合わせることもできるのでは――
『――ええい! 何と不気味な! 死ぬがよい!』
手のひらを掲げ、魔力を集め始める魔族だった。あーあ……。
「――ふぅん!」
雄々しい……じゃなかった。凜々しい声を上げながら師匠が剣をぶん投げた。即断即決。迷い無し。まぁここで「まぁまぁ落ち着いて交渉を」とか口にする人間では近衛騎士団長は務まらないのだろう。怪しい人間は即排除。王や王族が死んでからでは遅いのだ。
『ぐあぁあああ!?』
避けることすらできずに剣が突き刺さる魔族。さすが師匠。俺だと一発目は避けられてしまったんだが、キッチリと一投一殺である。
『ぬぐぅううう!』
苦しそうに呻きながら空から落ちてくる魔族。たぶん魔力を全身に送るという器官を貫かれ、空を飛ぶ魔法を維持できなくなったのだろう。……背中にはコウモリみたいな翼が生えているが、あの程度の大きさで人間を飛ばすことなんて無理だからな。
「さーって」
海の上を歩き、落ちてきた魔族の元へ。……海の上を歩ける理由? 信じろ。己を。
「お、魔族も溺れるのか」
がぼがぼと沈みゆく魔族の首根っこを掴み、海から引き上げる俺。
「よう、お前さんの上司は誰か教えてもらおうか。ついでに何が目的か教えてもらえると助かるな」
『だ、誰が人間になど――がぼぼっ!?』
おっとしまった。ついつい手が滑って魔族を海に落としてしまった。泳ぐこともできずに沈んでいく魔族。きっと魔法に頼り切っているせいで泳ぎの訓練をしていないんだな。
……俺が首を押さえつけているから泳げないような気もするが、きっと気のせいだろう。だって気のせいだからな。
じっくり一分ほど『がぼがぼ』してもらったあと。俺は魔族を引き上げてやったのだった。やさしい。
「もう一度聞くぞ? お前さんの上司と、目的だ。簡単だろ?」
『だ、だれが――がぽぉ!?』
おっとしまった。ついつい手が滑って以下略。がぼがぼ以下略。もう一分コースだなこれは。




