好み・2
力なく地面に手を突くシャルロット、アリス、ソフィー。そんな彼女たちに向けてメイスとミラが檄を飛ばす。
「いえ、皆さん、諦めるのはまだ早いです!」
「ん」
「……というと?」
力なく顔を上げたシャルロットに、メイスとミラが握り拳を作ってみせる。
「好みの女性と結婚相手は違うと聞きますし!」
「ん」
「アークさんは身内に優しいですし!」
「ん」
「情が移った相手なら、好みから外れていても愛してくださるでしょう!」
「ん」
自信満々なメイスとミラ。
「……それ、結局は好みから外れているじゃないかー」
ぱたり、と地面に倒れるシャルロットであった。
そんな彼女たちのやり取りを興味深そうに見つめるリース。
(まぁ、アークの場合、『おもしれー女』も好きなのですが)
教えない方が面白そうだな、と判断したリースが自称情報屋・ラタトスクに視線を移す。
「現在の戦況は?」
「そうっすねぇ。神聖ゲルハルト帝国の皇帝は軍を集め終わったので、近々この国に侵略してくるでしょう」
もはや『なぜそんなリアルタイムに戦況を?』などとは突っ込まないリースだ。
「想定通りと。『通り道』はミライン侯爵領でしょうね?」
「すでに内通しているので、十中八九」
やれやれと肩をすくめるラタトスクだった。
(真っ先に裏切る人間など、重用されるはずがありませんのにね)
ふん、と鼻を鳴らすリース。テキトーな罪状を押しつけられて領地を取り上げられるか、転封されるか、あるいは都合よく『病死』するか……。どちらにせよ、あの皇帝が恩に思うことなどないだろうに。
ちなみに。もちろん。ミライン侯爵家とはメイスの実家であるが……余計なことは話さないリースだ。たとえメイスが知ったところでどうすることもできないのだから。
(まぁ、さすがにメイスも親に見切りを付けているでしょうけど)
それでもいつ芽を出すか分からないのが親子の情であると理解しているリースだ。今余計なことをされるくらいなら、全て終わるまで知らんぷりしている方がいい。
「レイナイン連合王国の方はどうですの?」
「ゆーっくりと軍を集めているっすねぇ」
「やはり、帝国が動くのを待っていますか」
「ま、当然っすよね。宿敵が勝手に消耗してくれるのですから。あとは近衛騎士団長がいつ出てくるか分からないっすし」
リーフアルト王国と敵対する存在が絶対に意識しなければならない存在・近衛騎士団長ライラ。その意味で言えばもはや戦略兵器であろう。
(そんなライラすらも落としているとは……まったくあの男は……)
魅力的な男性が夫であるのは喜ばしいとはいえ、まさかライラや古代竜や神格者までとは……。いくらなんでも限度があるだろうとため息をつくリースであった。




