第5章エピローグ 進軍
神聖ゲルハルト帝国の皇帝、ガイラークはわき上がる欲望を抑えきれなかった。
レイナイン連合王国との準同盟は無事締結され、あとはリーフアルト王国に攻め入ればいいだけだからだ。
すでに愚かな王太子によって騎士団の大半は消え去ったという。その後の調査によっても、王国に残された戦力は近衛騎士団長ライラのいない近衛騎士団と、魔導師団のみ。あとはいくつか騎士団も残っているが、治安維持目的のものなので戦力としては数えていないガイラークだ。
他には各地の貴族が有する私設騎士団もあるが、そんなものは端から問題にしていない。戦の趨勢が決まれば、貴族共など『本領安堵』を求めて勝手に頭を下げてくる。そういうものだと今までの征服活動から学んでいたのだ。
無論、時には抵抗を続ける愚か者もいるが、大局から見れば大した存在ではないと割り切っているガイラークだ。
この戦で、また多くの人間が死ぬだろう。
特に、新しく征服した国なら徴集した兵はゴミのように死ぬはずだ。
しかし、だからどうしたというのだろう?
一万人死のうが、二万人死のうが、リーフアルト王国を征服すれば王女ソフィーを手に入れられるのだ。周辺国の間でも話題になるほどの才女。麗しき姫。まさしく自分が蹂躙するに相応しい存在ではないかとガイラークはほくそ笑む。
最高の女が手に入るのだ。
そのために生まれの卑しい男が何万人死のうが、それは必要な犠牲でしかない。
「――出陣するぞ。リーフアルト王国攻めだ」
玉座から立ち上がったガイラーク。
そんな彼に対して、半ば無駄だろうと諦めながら宰相が進言する。
「まだ、レイナイン連合王国の準備が整っておりませんが」
「準備をわざと遅らせている、の間違いだろう?」
「それは……」
「よい。彼奴らがのんびりしているうちにリーフアルトの王都を攻め落としてしまえばいい。――王女が手に入ったあとは、別に兵を引いてもいいのだからな」
つまり、レイナイン連合王国にその後のごたごたを押しつけるつもりなのだろう。通常であれば兵を出したあとには領土確保などの利益を得るために動くものだが……ガイラークにとっては王女ソフィーこそが利益であり、彼女さえ確保できれば、国土などどうでもいいということなのだろう。
あるいは、レイナイン連合王国が疲弊したところでそちらを攻める算段か。
「では、さっそく準備いたします」
「うむ。通り道は確保してあるのだ。さっさと制圧してしまおう」
寝返った貴族の領土を通り道扱いとは……少し呆れつつも頭を下げる宰相であった。
これにて5章完結です。長すぎるので分割します。
本業が多忙なのと書籍化作業のため、今回は二週間ほどお休みします。よろしくお願いいたします。




