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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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あーあ



『――我が盟友の気配が消えたから何事かと思えば! 人間相手にやられるなど魔族の面汚し! ――だが、我が盟友の仇、取らせてもらうぞ!』


 なんか一人で盛り上がっている魔族in空だった。こっちはシルシュから発せられる冷気でガクブルなんだが。魔族って実は鈍い? もしかして神代竜やら邪神やらを見抜いたヴィナが特別鋭いだけ?


 というか、せっかく空を飛んできたのに大声で喋り始めるのってどうなの? 奇襲しようとか考えないわけ?


 俺が首をかしげていると、メイスが推測してくれた。


「魔族にとって人間は格下ですから。格下相手に不意打ちなどする気になれないのでは?」


「なるほど」


 魔族には魔族なりのプライドがあるらしい。となると、偽装とはいえ人間()と結婚しようとしたヴィナってかなり先進的な考え方ができるのでは?


 そんなことを考えていると、お空の魔族が呪文詠唱を始めた。――攻撃魔法。よし『敵』だな。


 というわけで。

 聖剣クラウ・ソラスを抜き、魔族に向けてぶん投げる俺。


『――なんと!? 剣を投げるとは野蛮な!?』


 すんでの所で回避する魔族。なるほど中々に手強い相手のようだ。


 が、すでにぶん投げていた神剣レバンティンを避けることはできなかったようだ。


『がぁあぁああ!?』


 腹部に真剣が突き刺さり、燃えながら落下する魔族。……おっ、地面に首から行ったな。アレは首が折れただろう。


 さすがの魔族も首が折れれば死ぬらしく、そのままぴくりとも動かなくなった。


「いやいや、死んだのはレバンティンで燃やされたせいでは?」


 ラタトスクに呆れられてしまった。なんでも俺のせいにされてもなー。困っちゃうなー。





 さて。俺の中で『魔族=あまり強くない』という図式が成立したわけだが。


「いやいやおかしいです。まぞく、とてもつよい」


 なぜかカタコトになっているメイスだった。そういうイメージが魔族の力を過大に感じさせているのではないだろうか?


「ないです、ないです」


 ないらしい。そんなもんかねぇ?


 さて、問題は魔族の強弱ではない。問題は、明らかに不機嫌なシルシュだ。


 確かにワサビ醤油で刺身を食べるところを邪魔されたのは可哀想だが、そんな不機嫌にならなくてもいいんじゃないか? もう刺身は食べちゃったみたいだし。


 と、俺の肩にラタトスクが手を置いた。


「アークさん、アークさん。むしろ苛つきをぶつけるべき魔族をアークさんが瞬殺しちゃいましたから。怒りの発散先がない感じです、あれ」


「えー」


 むしろ即排除すればシルシュも気分よくお食事できるだろうと踏んだのだが……そっちなのかぁ。


 どうしたものかなぁと俺が悩んでいると――シルシュが変身した。人間形態からドラゴン形態へと。なんだか久しぶりな気がする白竜姿だ。


『――よし、ちょっと滅ぼしてくるか』


 そう言い残して大空へと飛び立つシルシュ。俺を口に咥えて。……いやなんで俺? なぜに俺まで連れて行くんだ?


「ぎゃぁあああああ!?」


『ぎゃぁあああああ!?』


 地面からはそんな声が。どうやらまたアリスとヴィナが気絶したらしい。そういえばシルシュのドラゴン姿を見るのは初めてだっけ?


 ちなみに先ほどは気絶しなかったソフィーも気絶していた。声もなく。さすがに許容量オーバーらしい。むしろ平然としているベラさんとリースが異常なだけだな、これ。





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